100号

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30 高知論叢 第100号てはじめて王権が発生するという思想が生じるので反対だが,皇帝の身体は侵すべからずという文面には賛成した。憲法における君権の位置づけに関する次の井上毅の質問はむしろ自説を述べたもので....

30 高知論叢 第100号てはじめて王権が発生するという思想が生じるので反対だが,皇帝の身体は侵すべからずという文面には賛成した。憲法における君権の位置づけに関する次の井上毅の質問はむしろ自説を述べたものであった。憲法によって王権の特権を列挙する方法には反対である,日本は憲法によって王権ができたのではない,民権は憲法によって成立したが日本の王権は國の創始からあったのである。これに対してロエスレルは井上毅の主張は真理であり意味深長であるとして賞賛しつつも,憲法に主権者たる皇帝の権力を明記することは紛議を生ぜしめないために必要だ,と述べたがこれ以上論議はしなかった。この矛盾,すなわち天皇の絶対性を認めつつ,同時に憲法において天皇の権限を個別に規定すべきか否かという問題の解決は,憲法制定時において曖昧なままで玉虫色の決着が図られた。その矛盾を解決するために『古事記』のヤマト言葉,「治ス」を憲法甲案,乙案の第1条に使用したが,ロエスレルらの危惧は後に顕在化した。井上毅は『古事記』の統治概念は,シラスともう一つの統治概念であるウシハクを峻別していると主張する59。シラスが公共的な統治概念であるのに対して,ウシハクは国土国民を統治者の私有財産とみなす統治概念であると述べた。(3)憲法制定以降の論点① 初期議会における論点憲法制定まで国民は何ら憲法について知らされる事がなく,最初の憲法論議は議会においてなされた。天皇大権と議会の関係について衆議院では最初から混乱した。明治24年衆議院における質疑の中で「予算権ハ直接ニ天皇陛下ノ大権ニ渉ラス行政部ニ侵入セル此査定案ハ予算委員ヨリ撤回」すべしとする動議59 『万葉集』巻二には以下のようにシラスを詠んだ詩が収録されているが,憲法制定時や昭和の国体論争においても『万葉集』は多くは引用されていない。神分り分りし時に天照らす日女の尊天をば知らしめすと葦原の瑞穂の国を天地の寄り合ひの極知らしめす神の命と天雲の八重かき別きて神下し座せまつりし高照らす日の皇子は飛鳥の浄の宮に神ながら太敷きまして天皇の敷きます国と天の原石門を開き神あがりあがり座しぬわご王皇子の命の天の下知らしめしせば