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象徴天皇と神話33のように誇張する事に異議を唱えた。『万葉集』にも神のことをうすはくと述べている。大正8年この両語の問題を共通テーマにして同学会は研究会を開催した。加藤玄智は冒頭問題提起を行い,改めて井....

象徴天皇と神話33のように誇張する事に異議を唱えた。『万葉集』にも神のことをうすはくと述べている。大正8年この両語の問題を共通テーマにして同学会は研究会を開催した。加藤玄智は冒頭問題提起を行い,改めて井上毅が『古事記』の一カ所を引用して「王覇の別」かのように主張し,これに呼応して法律学者が公法と私法の違いと言うのはおかしいと述べた。本稿で示したように本居宣長が『古事記伝』において両語の説明をした箇所は少なくとも10カ所はある。この点は加藤玄智,井上毅の間違いであるが,加藤玄智による両語の説明は極めて正論であった。三矢重松は同学会において「シラスとウシハクの語義」なる報告の中で,「シラスとウシハクは全く別の言葉であってこれを比較して論ずるべきではない,『古事記伝』において軽く両語を比較したことが間違いであった,シラスとは尊厳なる言葉であり,これを同列に本居宣長が比較したことから論議を生じる事になって種々の葛藤を起こせるなり63」と述べ,加藤玄智の説は不穏当であると批判した。田中治五平は「しらすの語義研究とよさすの辞義」という同学会報告の中で,『古事記』にはシラスという言葉の後にはヨサス(依)という言葉が入る場合がある。ヨサスはシラスに近い言葉であり,これは委任するという意味である,と重要な指摘を行ったがこれ以上論争は進まなかった。井上哲次郎は大正9年の学会報告「我国体の特色を論じてしらすうしはくに及ぶ」において,『記紀』の事項解釈論からもはや離れて国体論を述べた。日本の国体は自然的国体,一元的国体,人道的国体,統一団体,精神的国体,という外国と異なるとして5つの特色がありしらす,うしはくだけで国体がわかるのではないと述べた。また,井上哲次郎は歴代天皇はかならずしらすと言い,決してうしはくとは言っていない,古来の精神主義を明確にすべきであり井上毅の説も修正すべしとした64。井上哲次郎による,井上毅説の修正とは以上の5点の“国体明徴説”である。井上哲治郎は昭和10年代にスローガンとなった“国体明徴”63 三矢重松「『シラス』と『ウシハク』の語義」(大正8年9月例会)『明治聖徳記念学会紀要』第13巻大正9年110頁64 井上哲次郎「以上所説に対する批評」『明治聖徳記念学会紀要』第13巻大正9年93頁