100号

100号 page 38/242

電子ブックを開く

このページは 100号 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
36 高知論叢 第100号なりと為すがごときは,これ全く万邦無比なる我が国体の本義を愆るものなり70」文部省は,この主張は西洋由来の学説を無批判に受け入れたものとして批判する『國體の本義71』を出した。天皇は萬....

36 高知論叢 第100号なりと為すがごときは,これ全く万邦無比なる我が国体の本義を愆るものなり70」文部省は,この主張は西洋由来の学説を無批判に受け入れたものとして批判する『國體の本義71』を出した。天皇は萬世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて統治し給ふ萬古不易の國體であり,日本は一大家族國家とした。日本の国体論争は,あえて君主の権限を記載しない,憲法の曖昧さに起因するものであった。井上毅らによる憲法起草段階の議論では,シラシメルは象徴天皇による国家統治72を意味するものであり,君主の主権を無限化するものではなかった。シラシメル君主の権威は憲法によって,制限されることがない国体の前提であった。天皇機関説論争の背景にはあるものは,シラシメル,ウシハク,萬世一系73,八紘一宇なる『古事記』に由来する情緒的な響きを現代人に与えた言語であった。結八百万の神々,現世,黄泉の国と根国の幽をシロシメス“三界を一身に繋ぐための神秘性を持った祭祀者である現御神”が『記紀』と『続日本紀』宣命にみる天皇の姿であった。昭和初期の日本の世論はシラスが持つ意味を充分明確にせず,超憲法的な象徴天皇の国体論を先行させた。最初の担い手は,明治太政官制下に登場した古典と洋学に通じた官僚であった。日本のナショナリズム,想像の共同体を結合させるために『古事記』の言語が果たした役割は大きかった。ベネディクト・アンダーソンはナショナリズムの発揚に大きな役割を果たした言語は日本人しか解せないと述べているが,その後のシラスという言葉こそナショナリズムを補完する役割を果たした。想像の国家を補強する上で,官僚が主導して神々を序列化,系列下した意義70 第一次「国体明徴に関する政府声明」昭和10年8月3日71 『國體の本義』文部省 昭和12年72 この意味で昭和憲法の天皇条項と明治憲法制定時における井上毅らとの国体認識に大きな相違はない。73 ドイツ人法律顧問は成文法に馴染まないと危惧しこの文字を憲法に挿入する事に反対した。