100号

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象徴天皇と神話37は大きかった。律令制下においては,律令が定める神祇官が神々の祭りを司る建前であったが,次第に地方の神社の神職を統括する制度は存続せず,各国の国司が幣帛を班給するようになっていた。明治国....

象徴天皇と神話37は大きかった。律令制下においては,律令が定める神祇官が神々の祭りを司る建前であったが,次第に地方の神社の神職を統括する制度は存続せず,各国の国司が幣帛を班給するようになっていた。明治国家は,神道は宗教ではないという前提で国家神道を法制化し,地方の神社まで伊勢神宮を筆頭とする神々に序列化した。万世一系の天皇が臣民をシラシメルことは,現世だけではなく同祖神の統一となった。井上毅らは古色蒼然たるシラス論を展開して皇統を装飾したことが,本人等が意図しない効果を後世に及ぼした。井上毅が憲法制定時に強調したシラスという言葉は,昭和の戦時体制下において,絶対君主を指す意味となり,超法規的存在となった。憲法起草段階における井上毅らの国体論議において,シラスは君主が国の象徴であり,絶対君主を意味するものではなかった。憲法では,天皇の国事行為を個々に明示せず,輔弼を総括すべき宰相については何ら明示されなかったことによって,結果的に憲法第四条が無力化された。日本の立憲政体は,君主に委任された輔弼が議会に諮って国政の責任を果たす体制であり,君主の絶対制を保証した制度ではなかった。憲法において君権は前提とされ,君主の個別の権限を記載しなかったことによって,国家主義を招来させた。皇道派が“現人神である天皇が世界の天皇”になると主張するに至り,シラスという言語が及ぼした負の影響は大きかった。天皇がシラシメル政の責任は君側の奸にあるとされ,大本営設置以降における戦争責任,共同謀議に関しても,天皇無答責とされる見解の根拠はシラスであり,憲法第三条であった。明治初期の一時期,象徴天皇は上代に逆戻りした時期があった。しかし,これは象徴天皇の歴史における異胎であった。