100号

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2 高知論叢 第100号シラシメル大王(天皇)という古語は,後世の人によって,国家統治という漢語では意味するところを言い尽くせないものであるとされた。それは,天上,天下,黄泉の国の人と八百万の神々までを統....

2 高知論叢 第100号シラシメル大王(天皇)という古語は,後世の人によって,国家統治という漢語では意味するところを言い尽くせないものであるとされた。それは,天上,天下,黄泉の国の人と八百万の神々までを統一する祭祀者をも意味し,自らは統治しない象徴天皇の存在を意味する。それ故に,明治憲法起草者達は主権という欧州で生まれた定義は国体に馴染まないとし,草案ではシラスを憲法第1条に入れようとした。シラシメル・シラス天皇は象徴天皇に近い意味を持ったが,彼らが予期せぬ役割をその後のシラスという語は果たしてきた。今日において改めてシラスに関する曖昧な発言が続いている。シラス論は決して過去の議論ではなく,天皇制の評価に関わる問題と言っても過言ではない。本稿はこれら先学の研究1に刺激されたものである。日本の天皇は神事,政務・軍務を委任する天皇,神事だけを自らが行い国務・軍務を委任する天皇,国事全般を取り仕切る天皇などその実像には幅があった。最初の統一王朝の可能性が高いとされる崇神天皇も,『記紀』によると将軍に統帥権を委任して国家統一をしており,日本の天皇は専制君主であった時代はほとんどなく,古代から日本の天皇は象徴天皇であると見なして間違いではない。明治憲法に王権神授説が導入された時期は欧州と同様に王権の末期であった。しかし,西欧の王権は反動として現れたが,日本の王政復古は同時に革命であった。近代思想の発達において彼我の差は大きかった。本稿が対象とするものは明治憲法策定段階からの第1条,第3条,第4条に関する天皇条項と神話が孕んでいた曖昧さを整理する事にある。天皇による国家統治を意味するシラスという言葉を,国体の基礎に挿入した時の当事者であった井上毅等の見解と,彼らが依拠した『記紀』,本居宣長『古事記伝』によってシラス論の虚実を検討し,併せて,シラスという言霊が及ぼした歴史的意味を考察する事が課題である。1 島善高『律令制から立憲制へ』平成21年成文堂,佐藤雉鳴『本居宣長の古道論』平成19年1月星雲社