100号

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50 高知論叢 第100号マルクスは,『資本論』第Ⅰ巻第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」で,「資本の蓄積に対応する貧困の蓄積」(Kapital, Ⅰ , S. 675)を定式化したが,「一方の極での富の蓄積は,同時に反対の....

50 高知論叢 第100号マルクスは,『資本論』第Ⅰ巻第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」で,「資本の蓄積に対応する貧困の蓄積」(Kapital, Ⅰ , S. 675)を定式化したが,「一方の極での富の蓄積は,同時に反対の極での,…貧困,労働苦,奴隷状態,無知,粗暴,道徳的堕落の蓄積なのである」(Ibid.)とあるように,富の蓄積の反対の極に,貧困の蓄積がなりたつ。だから,前者の反射としてはじめて,後者がなりたつ。そうだとすれば,さかのぼって富そのものの反面に,労働者の貧困がなりたつことになる。つまり,資本主義の発展とともに蓄積される貧困は,資本家が労働者から取得する富の反射規定としてなりたつ。先行研究における貧困概念の欠如の一因には,反射規定の認識のうすさがあると推論される。 すなわち,商品は,資本主義社会における富の基本形態である1)が,資本主義に特有な富は,商品形態をとってうまれる剰余価値である。ところが,ブルジョア的な富としての剰余価値は,その分量だけ付加価値から労働者の取得分をおしさげる。労働者は,生産条件の喪失にともなう必要労働の圧縮とそれをこえる労働日の延長という正反対の方向性をもつ作用によって,剰余価値をうみだす結果,搾取がないばあいに比してその分量だけ,物質的状態がおちこむ羽目になる。マルクスの貧困概念のもつ決定的な特色は,富という積極的な契機の対極に同時に刻印されるその反射として,貧困をとらえる点にある。富の形成の反面に貧困をみいだすのは,ほかのすべての立論と絶対的に区別される『資本論』のいわば専売特許である。 ひるがえっていえば,第23章の貧困の蓄積にかんする先行研究の壁の一つに,貧困をもって積極的な要素としての富の反面とみなすヘーゲルの反射規定の認識不足があるとおもわれる。ヘーゲルの反射規定認識が確立しておれば,富の蓄積に対応して貧困の蓄積がなりたつのだから,資本家サイドに形成される富の反射規定として,労働者サイドに貧困が受動的に成立するという見地に,それほどの困難なしに到達できると考えられるからである2)。そのいみで,ヘーゲルの反射規定は,それ自体,『資本論』研究にとって独自な価値をもつ弁証法の一要素である。 以上,本節で,労働者の享受する貧困は,資本家が取得する剰余価値という富の反射規定である関係をといた。だから,ヘーゲルの反射規定は,資本=生