101号

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2 高知論叢 第101号が健全でさえあればその継続性が持続可能であることは,困難な課題ではないはずである。この様な限定した意味でsustainability は経済学においても使用されてきたが,兵糧の意味を包含する戦時財政問題は,古代から特別の意味をもっていた。第 2 次大戦前の日本は戦時が常態化した,世界史でも稀な国家であった。今日の日本の財政はGDP 比2 倍近い債務を抱え,かつプライマリーバランスの赤字が恒常化し,地方を含めず中央政府の債務水準だけでもかつての戦時体制下に匹敵する水準である。少子高齢化社会における社会保障制度の効率性を高めることと,公平性を維持するトレードオフの関係を如何に維持するか,さらに災害等の復興と危機管理対策に関する財源のあり方なども,肥大化の一途をたどる財政政策上の重要な課題である。GDP の増加が長期金利を下回る時代において,財政の肥大化に歯止めがかからない問題は過去の歴史にもあった。第 2 次大戦前の日本は財政全体が軍内局を筆頭とする官僚を制御できなかった。満州事変・日中戦争期以降の日本財政は破綻に瀕し,その債務は戦後までのつけとなった。終戦は日本財政の持続可能性が否定されたと同義であった。日本財政の破綻と持続可能性は従来の様な一般的な議論のままでよいのか,本稿の目的はそこにある。本稿で対象とする時期は,第 2 次大戦前の日本財政である。明治維新から第 2 次大戦までの1868年~1945年のうち,内閣制度が成立した1885年から,戦時期における極端な異常値を示す前の1840年までの統計を主に用いる。戦前の日本を,民政と軍政の分離による二重国家とする研究がある1が,定量的な研究は多くない。本稿はプライマリーバランスと政府債務,軍事費を切り口にして,その時期における財政持続可能性が失われる契機と財政破綻の仕組みを明らかにしようとする試みである。1.先行研究と課題財政の持続可能性については,ドーマーによる1940年代の古典的研究がある。1 ハンチントン『軍人と国家上』原書房 市川良一訳 昭和53年9 月1 日