高知論叢102号

高知論叢102号 page 51/222

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旧優生保護法と刑法学49を行った9が,谷口はこれに納得せず立法化作業を急いだ10。一方太田典礼は,産婦人科の臨床医として,専門医による人工妊娠中絶合法化の必要性を訴えていた11。そして,戦前産児制限運動を共....

旧優生保護法と刑法学49を行った9が,谷口はこれに納得せず立法化作業を急いだ10。一方太田典礼は,産婦人科の臨床医として,専門医による人工妊娠中絶合法化の必要性を訴えていた11。そして,戦前産児制限運動を共にしていた加藤シヅエ,同じ社会党の医師である福田昌子と共に,優生保護法案を作成し,第1国会に提出した12。加藤シヅエから法案説明がなされているが,国民優生法が出産を強要する法律であること,それ故一方では悪質遺伝防止の目的を達成できておらず,他方では母体の生命,健康が蝕まれていることが問題であるとされていた13。結局,この法案は審議未了となったのであるが,ここで参議院の医系議員から太田らに対し,参議院で法案を通したいとの交渉があり,国民優生法改正の動きは一本化することとなった14。こうして法案は,第2 国会において先ず参議院を通過し,衆議院でも可決され,優生保護法として成立した。太田らのグループにしても,谷口らのグループにしても,人工妊娠中絶の捉え方に違いはあるものの,国民優生法が悪質遺伝の防止という機能を十分に果たせなかったという点については見解が一致している。優生保護法成立以降も優生政策が更に強化されていったが,優生保護法制定を推進した人々の間では,優生政策強化の必要は共通認識であった。9 この内容は以下の通り。「一.国民優生法で人口問題の解決は不可能であるが,社会状勢の現状に鑑みて申請手続の簡略化の必要は同感である。二.優生手術前に妊娠したものの中絶施行については,目下研究を進めて居る。三.避妊器具や薬品中で有害なものは,同取締規則及薬事法によって,今後も充分に取締を実施したい。四.妊娠中絶の適否を判定する機関の必要は感ずるが,社会目的に迄発展せしめることは,波及するところが大きいから慎重に考えたい。五.1.強姦等によって妊娠した場合の中絶は、刑法との関係があるので研究したい。2.精神缺陷者に対して妊娠中絶の途を開くことについては研究中である。3.社会目的の妊娠中絶は刑法,社会上の影響,その他とにらみ合せて慎重に検討を要すると思う。4.分娩毎に健康を低下するものは医学的適応となし, 生活困難は生活保護法の適用など社会的救済に委したい。5.人口栄養が充分に行い得るように努力したい。」谷口・前掲注(6)16頁以下。10 谷口・前掲注(6)17頁。11 太田典礼『堕胎禁止と優生保護法』(経営者科学協会,1967年)160頁には,太田が警察へ行って自己の見解を表明してきた旨のエピソードが書かれている。12 太田・前掲注(11)164頁。太田らの優生保護法案は,第1 国会衆議院厚生委員会議録第35号(昭和22年12月1 日)272頁以下,太田・前掲注(11)322頁以下に掲載されている。なおこの3 名とも,当時衆議院議員を務めていた。13 第1 国会衆議院厚生委員会議録第35号(昭和22年12月1 日)273頁以下。14 太田・前掲注(11)170頁以下。