高知論叢102号

高知論叢102号 page 53/222

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旧優生保護法と刑法学51に,断種法に関して戦前から発言していた刑法学者の木村龜二が法律学の立場から優生保護法の問題を論じている20。ここで木村は人工妊娠中絶の問題を論じるのに先立って,先ず優生手術の問題に....

旧優生保護法と刑法学51に,断種法に関して戦前から発言していた刑法学者の木村龜二が法律学の立場から優生保護法の問題を論じている20。ここで木村は人工妊娠中絶の問題を論じるのに先立って,先ず優生手術の問題について述べている。木村は,戦後においても優生保護法を優生手術を中心とする法律であると認識しており21,優生手術の対象に感染症たるハンセン病患者や,ある種の犯罪者を含ましめているなど幾つかの点で問題を指摘している22。その上で優生保護法第14条23について論じるのであるが,第1 号,第2 号,第3 号を優生学的適応によるもの,第4 号の前段を医学的適応によるもの,後段を社会的適応によるもの,第5 号を倫理的適応によるものとしている。そして今日では再検討を要する24ものとして第1 号の「精神薄弱」を挙げ,「精神薄弱には遺伝性のものが約五〇%位あるとのことであるが,その他は遺伝性のない者であり,しかも,たとえ精神薄弱とはいっても,それが常人に近い魯鈍程度の者についても妊娠中絶を許すとすれば許容の範囲が非常に広くなり必然的に乱用せられることもありうる」25との危惧を示している。そこで堕胎罪の検挙人員数の激減26は優生保護法第14条の乱用に原因があるとの推測を述べ,「乱用を避けるために優生保護法において許されている妊娠中絶の規定の意義を明確にし,その中絶の手続を厳重42頁以下等が挙げられる。20 木村龜二「胎児の生命権と優生保護法」『法学セミナー』140号(1967年)。21 木村・前掲注(20)61頁。22 木村・前掲注(20)62頁において木村は,「わが国の優生保護法は,遺伝的疾患ではなく伝染病だとせられている癩の患者を優生手術の対象としたり,妊娠または分娩が母体の生命に危険を及ぼす虞れがあるものや,現に数人の子を有し,且つ,分娩ごとに,母体の健康度を著しく低下する虞れのあるものを対象としたりして,その性格がはなはだ曖昧なものになっているばかりか,古いロンブローゾの犯罪の遺伝性という今日では一般に否定せられている考えとか,ナチ時代のドイツの双生児の研究の結論として一部の学者が主張したところを鵜呑みにしたものか,『顕著な犯罪的傾向』を遺伝的精神病質の一種と考え,ある種の犯罪者を優生手術の対象とするという奇怪な立法になっていることを看過すべきではなかろう」と述べている。23 医師の認定による人工妊娠中絶についての規定である。24 ここで木村は「比較法的見地から」再検討を要するとしている(木村・前掲注(20)63頁)。戦前からの方法論が,戦後も踏襲されているようにも見受けられる。25 木村・前掲注(20)63頁。26 ここで木村は「警察庁刑事局,昭和三八年,犯罪統計書」を資料として用いている。「全国で,昭和三一年から三八年までに至る間においては,各年につき二六名,二六名,二四名,五名,三名,七名,二名,五名」との数を呈示している(木村・同前注(2)63頁)。