高知論叢102号

高知論叢102号 page 55/222

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旧優生保護法と刑法学53手術,ひいては優生思想の社会に与える影響や問題への更に踏み込んだ検討にまで至り得なかったようにも思われる。4 戦後吉益の断種法理論ここで戦前と戦後の連続,非連続を検証する為に,戦....

旧優生保護法と刑法学53手術,ひいては優生思想の社会に与える影響や問題への更に踏み込んだ検討にまで至り得なかったようにも思われる。4 戦後吉益の断種法理論ここで戦前と戦後の連続,非連続を検証する為に,戦後の吉益脩夫の断種法理論についても見ておこう。戦後も吉益は,犯罪心理学関係で,多くの著作を残している34。東京医科歯科大教授を務めていた1961年に著された『優生学』35の序においても,第2 次大戦後人口の質の問題が等閑にされたこと,しかしわが同胞の永遠の平和と幸福を考えるとき優生学的対策は忘れることのできない重要な問題であることを指摘し,一層速やかな考慮が必要であるとしている。吉益によれば,優生学の理論の大部分は既に人類遺伝学の知見が得られる以前に築かれており,よってその理論の一部に確固たる科学的根拠が欠けていたと指摘している36。また実際,一部の為政者によってそれが政策的に乱用されたと認識している37。しかし吉益は,このことを以っても優生学的断種はその重要性を失わないとする。「優生学的断種は人類の福祉のため不可欠の手段である」38と評価している。そして,優生保護法を戦後の退廃という社会的危機を救済するための新たな断種法として位置付けていることが注目される39。優生保護法の特徴として,断種に関しては,国民優生法下よりも手術の施行が容易になったこと,「癩疾患」の伝染予防のための断種も認められたことを挙げている。そして国民優生法下の1941年から1945年における優生手術実施数が最も多い年でも200件に満たなかったのに対し,最近の手術数が年1000件を越えることに言及し,これを人口の最近の増加,戦争の影響等によるほかに,34 一例を挙げれば,吉益脩夫『犯罪心理学』(東洋書館,1950年)。35 吉益脩夫=井上英二=上出弘之=武村信義『優生学』(南江堂,1961年)。以下,掲げるものは吉益執筆箇所である。36 吉益ほか・前掲注(35)156頁。37 同前。38 吉益ほか・前掲注(35)157頁。39 吉益ほか・前掲注(35)188頁。