高知論叢102号

高知論叢102号 page 56/222

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54 高知論叢 第102号断種手術が今日の方がはるかに容易に行われ得るという法律の差異のためであるとしている40。このことを踏まえて吉益は,「最近年ごとに優生手術のための国家予算も増加しており,それに伴って遺....

54 高知論叢 第102号断種手術が今日の方がはるかに容易に行われ得るという法律の差異のためであるとしている40。このことを踏まえて吉益は,「最近年ごとに優生手術のための国家予算も増加しており,それに伴って遺伝性疾患の断種数のふえているが,この増加がもしあまりに断種手術が安直に行なわれていることを示すものでないとしたら,まことに結構なことと思う」41と述べている。強制断種についてはここでも慎重な態度42を示しており,できるだけ任意で行うよう提言している43。以上の通り,吉益の優生学という科学へのこだわりは戦後も揺らぐことがなかった。吉益にとって,「人類の福祉」の為には優生学は必要であり,悪性の素因の遺伝は将来の人類の為に断たねばならなかった。被施術者の意思は,その効果の限りにおいて考慮されるものであった。国民優生法が民族意識をさかんに昂揚された時代に成立したという事情に触れながら44,戦後強化された優生政策に対して肯定的であり,戦後における断種手術の件数増加を積極的に評価し,その際専ら優生手術件数の数字のみを肯定していることから,優生学の反作用については依然として顧みなかったことが窺えよう。例えば患者の生活史や背景に深く遡って,その状況が改善されたかを検討する姿勢はあまり見られなかった。5 優生保護法改正と刑法改正問題1972年には優生保護法「改正」案が国会に上程され,人工妊娠中絶の適応事由に関する議論が本格化した45。「経済条項」削除及び「胎児条項」導入が図ら40 吉益ほか・前掲注(35)198頁。41 同前。42 とはいえ,吉益が,強制断種に対して断固反対の立場を採っていることは,読み取れない。43 吉益ほか・前掲注(35)198頁以下。なお,戦前の吉益の見解は,拙稿・前掲注(1)186頁以下参照。44 吉益ほか・前掲注(35)188頁。45 1972年の優生保護法「改正」案は,第14条第1 項第4 号中,「身体的又は経済的理由により」の句を削除,「母体の健康」を「母体の精神又は身体の健康」に改め,同号を「妊娠の継続又は分娩が母体の精神又は身体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に改正し第5 号に,第4 号として新たに,「胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められるもの」を人工妊娠中絶の適応事由