高知論叢102号

高知論叢102号 page 57/222

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旧優生保護法と刑法学55れたが,結果的には審議未了,廃案となった46。刑法学においても,1961年には改正刑法準備草案が公表され47,堕胎罪をめぐる議論が活発になされるようになる。現行刑法と殆ど変わらない規定を....

旧優生保護法と刑法学55れたが,結果的には審議未了,廃案となった46。刑法学においても,1961年には改正刑法準備草案が公表され47,堕胎罪をめぐる議論が活発になされるようになる。現行刑法と殆ど変わらない規定をもつ改正刑法準備草案,改正刑法草案48に対しては,自己堕胎,同意堕胎については処罰規定を撤廃すべきであるとの意見が強力に主張されている49。平野龍一は,空文化した堕胎罪を「堕胎は悪いことである」との宣言の為に存置することに対して,「刑法は教育勅語ではない」50と批判している51。しかしこのような見解に対しても,今なお堕胎罪存置の意義は失われてはいないとする批判が存在している52。なおここで特筆すべきことは,1996年の優生保護法改正の際,一斉に削除された優生思想に基づく条文に関して議論された形跡が全くないということである。論点として挙がってくるのは,名目だけとなってしまっている堕胎罪の処として加えるものである。(滝沢正「優生保護法運営の問題点」『日本醫師會雜誌』第68巻第10号(1972年)1109頁参照。)46 この間の経過については,石井・前掲注(17)156頁以下に詳しい。47 法務省刑事局編『法制審議会 改正刑法草案の解説』(大蔵省印刷局,1975年)の「はしがき」における経緯の説明は以下の通りである。「……昭和三一年一〇月,刑法改正に関する問題点の検討と予備的な草案の作成にあたらせるため,同省刑事局内に刑法改正準備会と称する非公式の委員会を設けることにした。同準備会は,同省刑事局長を会長,同省特別顧問小野清一郎博士を議長とし,在京の学者及び実務家十数名の参加を得て審議をつくした結果,昭和三六年になって改正刑法準備草案を完成し,理由書とともにこれを公表するに至った。」48 業務上堕胎罪規定(現行刑法第214条)を削除し,新たに営利堕胎罪規定(第275条)を設けた点,またその第275条の第3 項として罰金の裁量的併科規定を設けた点,自己墮胎(第273条)の法定刑に選択刑として5 万円以下の罰金を規定した点,以上が改正された点である。(法務省刑事局編・前掲注(47)278頁以下。)49 中義勝「第二十六章 堕胎の罪」平場安治=平野龍一編『刑法改正の研究2 各則』(東京大学出版会,1973年)298頁以下。西原春夫『犯罪各論』(筑摩書房,1974年)25頁以下。山元康市「ポルノから堕胎まで」大阪弁護士会編『一億人の刑法』(科学情報社,1974年)183頁。萩原玉味「第二編第二六章 堕胎の罪」『法律時報臨時増刊 改正刑法草案の総合的検討』(日本評論社,1975年)206頁以下。吉川経夫『刑法改正23講』(日本評論社,1979年)262頁以下等。50 平野龍一「社会の変化と刑法各則の改正」平場安治=平野龍一編・前掲注(49)17頁。51 平野は,平野龍一「家庭および性道徳に対する罪」『刑法の基礎』(東京大学出版会,1966年)183頁以下においても非犯罪化を示唆している。52 江口三角「人工妊娠中絶と堕胎罪」『現代刑法講座 第5巻』(成文堂,1982年)307頁以下,金沢文雄『刑法とモラル』(一粒社,1984年)148頁以下等。