高知論叢102号

高知論叢102号 page 58/222

電子ブックを開く

このページは 高知論叢102号 の電子ブックに掲載されている58ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
56 高知論叢 第102号罰規定を存置することの是非,人口問題,性道徳との関係,諸外国の規制緩和傾向の捉え方等53であって,改正刑法草案の内容に対する法律家以外の人々の理解を促す意図で配布された『刑法改正をど....

56 高知論叢 第102号罰規定を存置することの是非,人口問題,性道徳との関係,諸外国の規制緩和傾向の捉え方等53であって,改正刑法草案の内容に対する法律家以外の人々の理解を促す意図で配布された『刑法改正をどう考えるか』54の中では,「いまさら指摘するまでもないことですが,……父親や母親に遺伝的な病気がある……場合などは,優生保護法によって姙娠中絶が認められており,堕胎罪として処罰されることはありません。このように,わが国の優生保護法は,合法的な姙娠中絶を広く認めており,姙娠中絶が正当化される範囲は,諸外国の立法例に比較しけっして狭いとはいえません。そして,姙娠中絶が認められないために,母親が不当な苦しみを受けるというような場合はほとんどないといってよいでしょう。」55との記述も見られ,遺伝疾患を理由とする妊娠中絶が当然のこととして捉えられている。6 法律学における優生保護法改正論議この時期,刑法学説に胎児条項の導入を示唆するものが現れた。1978年6 月に開催された第9 回日本医事法学会の第1部会における中谷報告56がそれである。中谷は,堕胎罪規定の空文化について,「このような空文化した規定をそのまま存置することには,法の実効性の確保の点から重大な疑問があるといわねばならない」57との問題提起をした上で,「しかし,胎児は,すでに生まれた者と同一視はできないとしても,法律上保護されるべきものであるかぎり,『産む,産まないは,女性の自決権に属する』とわり切って,中絶を完全に非犯罪化することはできないであろう」58「現にルーズな優生保護法の適用によって,一部に殆ど心の痛みを感じないまま中絶が繰り返されており,それがやがて出生後の嬰児の殺害も中絶の延長として違法の意識を鈍麻させることになりかね53 法務省刑事局編・前掲注(47)278頁以下。54 法務省刑事局編・前掲注(47)「はしがき」において本書の性質に関する記述がある。55 法務省刑事局『刑法改正をどう考えるか』(大蔵省印刷局,1974年)48頁。56 本報告は,中谷瑾子「妊娠中絶に対する法的規制の在り方」『ジュリスト』678号(1978年11月15日)として収録されている。57 中谷・前掲注(56)39頁。58 同前。