高知論叢102号

高知論叢102号 page 59/222

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旧優生保護法と刑法学57ない危惧がある」59との見解を示している。優生保護法についても,「適応条項はすでに発生学や医学,薬学等諸科学の発達と関連して再検討を要する時期に至って」60おり,「社会・経済的適応を....

旧優生保護法と刑法学57ない危惧がある」59との見解を示している。優生保護法についても,「適応条項はすでに発生学や医学,薬学等諸科学の発達と関連して再検討を要する時期に至って」60おり,「社会・経済的適応をも認める進歩的な拡大適応モデルとして評価できるものの,胎児側適応の規定がないのも,問題であろう」61との指摘をする。その上で,「刑法規定の中に中絶に対する基本姿勢を,規定すべきであり,適応を列挙するか,少なくとも,特別法規における中絶適法化条項の存在を前提とする明確な規定を挿入すべきであ」62るとの提言をなしている。1982年,優生保護法「改正」問題は再び国政の場で議論された63。この時期,法律学一般についても,議論の中心は人工妊娠中絶問題であった。石井美智子は「自己の生殖をコントロールする権利」「家族形成権」というそれまでにはなかった権利64を踏まえて,刑法の堕胎罪の再構成を試みている65。新たな「中絶法」制定に向けて,優生保護法に関するアンケート調査も行われている66。その他,女性差別撤廃条約との関連で,堕胎罪の不合理を指摘するもの67,女性学からの優生保護法批判68も見られるようになる。1990年の妊娠中絶可能期間2 週間短縮に関しても,その決定に際して女性の意見が広く求められることなく,極めて政治的になされたことを批判する論稿がある69。また丸本百合子は,医師59 同前。60 同前。61 同前。62 中谷・前掲注(56)40頁。63 今回の争点も経済条項の見直しであった。64 石川稔「優生保護法と改正問題」『法学セミナー』第27巻第7 号(1983年)も同旨の主張をしている。65 石井美智子「堕胎問題の家族法的分析」日本法社会学会編『続法意識の研究』(有斐閣,1984年)等。中山も,中山研一「妊娠中絶に対する法規制のあり方」『判例時報』1441号(1993年)において石井案を検討対象としている。66 陸路順子「優生保護法にみる男女不平等」『法の中の男女不平等』(信山社,1993年)47頁以下。67 金城清子「優生保護法と人口政策」『法と民主主義』179号(1983年)。金住典子「優生保護法と中絶の権利」『女性と法』(日本評論社,1984年)。角田由紀子「私のからだは私のもの」『性の法律学』(有斐閣,1991年)。68 溝口明代「『男性』の思想と社会の形成」『女性学』第2 号(1994年)。岩本美砂子「生殖の自己決定権の今」『女性学』第2 号(1994年)。69 角田・前掲注(67)。岩本美砂子「生殖の自己決定権と日本的政策決定」『女性学』創刊号(1992年)。