高知論叢102号

高知論叢102号 page 60/222

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58 高知論叢 第102号の立場から,堕胎罪と優生保護法を撤廃し,女性の健康を保障する新たな法律を制定すべきことを提言し,胎内の発生過程で起こる異常は防ぎ得るものではない以上,先天的に障害をもって産まれた子....

58 高知論叢 第102号の立場から,堕胎罪と優生保護法を撤廃し,女性の健康を保障する新たな法律を制定すべきことを提言し,胎内の発生過程で起こる異常は防ぎ得るものではない以上,先天的に障害をもって産まれた子を健常な子と同じように社会に受け入れ,育成の援助をしようというのが本来の行政の努めであることを指摘している70。この時期発表された科学史の業績71も,優生保護法を論じる際よく引用されており,この問題に関する議論状況に大きな影響を与えている。それらの動きを踏まえて,1983年中谷は人工妊娠中絶について,「優生保護法の動き」として,以下のように述べている72。「昨年の三月一五日,通常国会(第九六回)の参議院予算委員会で総括質問に立った自民党の村上正邦議員が,生命尊重の立場から,優生保護法一四条一項四号の『妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの』という規定から,『経済的理由』を削除すべきことを政府に迫り,当時の鈴木首相,森下厚生大臣が前向きに検討することを約束したことに始まる。」「去る三月二四日の夕刊は,いっせいに,優生保護法の改正案の今国会提出は,自民党内の賛否両論の調整がつかなかったため,事実上見送られる見通しになったことを報じた。」「これまでの経緯から見て,これで完全に終ったわけでもなさそうである」73。ここでは以前よりも「胎児の生命の保護」を全面に押し出した議論を以って,人工妊娠中絶を女性の権利として捉える論者に対抗している74。「発生学の発達した今日,胎児を妊婦の完全な一部と解することは,科学的知見に反する。胎児は妊婦とは別個の生命体であるから,その胎児の処分は,自己決定権の範囲内とはいえないからである」75として,生命の発生を「科学的」に捉えることにより,胎児の生命の毀滅が自己決定権の枠に収まりきれるものではないことを述べている76。70 丸本百合子「女性の身体と心」『女性の現在と未来』(有斐閣,1985年)。71 米本昌平「ドイツ民族衛生学の成立」『社会思想史研究』3 号(1979年),同『遺伝管理社会』(弘文堂,1989年)。鈴木善次『日本の優生学』(三共出版,1983年)。72 中谷瑾子「次代へ架ける法の選択」『判例タイムズ』第500号(1983年)。73 中谷・前掲注(72)7 頁。74 中谷・前掲注(72)10頁。75 同前。76 中谷はこの論文に先立ち,「生命の発生」とそれへの刑法の関わり方についての論文(中谷