高知論叢102号 page 61/222
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旧優生保護法と刑法学59更に1985年の論文77では,より明確に自己決定権批判を展開している。1983年論文78では,軽く触れるに止まっていた石井の見解79に対して,ここでは正面から評価を加えている。石井の見解を「ア....
旧優生保護法と刑法学59更に1985年の論文77では,より明確に自己決定権批判を展開している。1983年論文78では,軽く触れるに止まっていた石井の見解79に対して,ここでは正面から評価を加えている。石井の見解を「アメリカの判例のいうようにプライバシーの権利といった単なる個人の自由権としてではなく,婦人の幸福追求権の一環を成す『家族形成権』という社会権として保障されるべきであると主張する見解」80とした上で,中谷は,「私は,『胎児は,殺人罪を基礎づける法益ではないが,さりとて不必要な法律上の無でもなく,人間の全ての資質を備えた生成中の人間であり,したがって,その生命は,原則的に尊重され保護されなければならない』というロクシンの見解に基本的にくみする者である。女性は産むか産まないか,いつ,何人産むかは自ら決定する権利はあるが,それが直ちに『堕胎する権利』に直結するとは考えないのである。」81「胎児の生命の保護を考えながら,なおかつ妊婦がどうしても中絶せざるを得ないような一定の場合には,これを権利として認めるというよりは,そういう行為に対して,国家が刑罰権をもって介入することはさし控えるのである(刑法の謙抑性),そういう形で許されるのだというように考えなければならないのではないか。これが堕胎規制に関する私の基本的な考え方である。」82と主張している。自己決定権を基本に据える見解一般に対する中谷の包括的な批判といえようか。更に中谷は,優生思想への反対から胎児条項を否認する論者の多くが,他方で経済的理由を存置して,この条項の適用によって異常胎児の中絶を行うことには賛成している点を論理矛盾として疑問を呈している83。中谷から見れば,胎児条項を導入した方が論理一貫性があるということになるのであろう84。瑾子「生命の発生と刑法」『現代刑罰法大系 第3 巻』(日本評論社,1982年))を発表している。77 中谷瑾子「優生保護法と堕胎罪」『女性そして男性』(日本評論社,1985年)。78 中谷・前掲注(72)。79 石井・前掲注(17),同・前掲注(65)。80 中谷・前掲注(77)181頁。81 同前。その他,生命の萌芽に独自の保護法益を認め,女性の自己の生殖を支配する権利とのバランスがはかられるべき問題とするものに,岩井宜子「堕胎を制限するミズーリ州法に対する米連邦最高裁の合憲判決」『ジュリスト』第947号(1989年)68頁以下がある。82 中谷・前掲注(77)181頁以下。83 中谷・前掲注(72)10頁。84 中谷は1983年論文(中谷・前掲注(72))では胎児条項導入をはっきりとは主張してい