高知論叢102号

高知論叢102号 page 64/222

電子ブックを開く

このページは 高知論叢102号 の電子ブックに掲載されている64ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
62 高知論叢 第102号人の権利に優先する優生思想が明確に現れ」たものとして95これを批判し,「遺伝性疾患を有するものに対して不妊手術を行う場合にもあくまで本人の希望によって実施すべきであり,第三者である医....

62 高知論叢 第102号人の権利に優先する優生思想が明確に現れ」たものとして95これを批判し,「遺伝性疾患を有するものに対して不妊手術を行う場合にもあくまで本人の希望によって実施すべきであり,第三者である医師に申請の義務をおわせたり,『公益上』などという表現を用いるべきではない。遺伝性疾患をもつ個人がその遺伝子を自分の子どもに伝えたくなければ,本人の意志と希望に従って手術を実施出来るようにしておくことで十分であろう。」96との提言をなしている。また第12条と第13条の規定に関連して,「精神疾患や精神薄弱などのために手術の意義が理解出来ない場合」97については,「手術の可否を検討し許可をあたえる何らかの審査機関が必要になる」98としている。「審査機関」への信頼を前提とした見解といえるであろう99。以上のように,我妻は一方で優生思想を具体化した優生手術規定を批判しながらも,一貫して胎児条項の導入を主張している。基本的には我妻は,胎児条項導入による堕胎罪の厳格な運用を意図しているといえる。しかし,優生思想の克服という観点からみた場合,我妻の見解にもなお検討の余地があるように思われる。すなわち,我妻は,優生学が個人の基本的権利に干渉することを厳しく論難している点で正当ではあるが,しかし,その後に課題として現われるであろう個人に潜む優生思想の克服については,何ら回答を用意していないと思われる点である。そしてこの温情主義的な胎児条項の導入に,優生思想の克服という問題からの逃避が窺えるのである。おわりに以上,大まかに検討してきた通り,人工妊娠中絶に関する議論が刑法改正問題とも関連して激しくなされているのに対し,優生手術の問題は法律学,とり95 同前。96 我妻・前掲注(90)「優生保護法の問題点」90頁。97 同前。98 同前。99 但し,我妻は,審査会構成員等の具体的な事項については触れていない。