高知論叢102号

高知論叢102号 page 65/222

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旧優生保護法と刑法学63わけ刑法学においてはおおむね等閑にされてきた感がある。これは,統計100によれば,非常に大きな問題を孕んでいる第4 条及び第12条の規定に基づく優生手術が最も多く実施されたのが1955年の1....

旧優生保護法と刑法学63わけ刑法学においてはおおむね等閑にされてきた感がある。これは,統計100によれば,非常に大きな問題を孕んでいる第4 条及び第12条の規定に基づく優生手術が最も多く実施されたのが1955年の1,362件101であり,前後5年間はいずれも1,000件以上実施されているのが,それ以降は数の上では落ち込み,平成4年に第12条に基づく手術が1 件実施された102のを最後に全く行われていないという,数の少なさにもよるであろう103。刑法学において優生手術の問題を取り上げているものを見てみると,性転換との関連で論じるもの104や望まない妊娠を避ける為の方策として優生手術がもっと活用されるべきであるとするもの105といったものが存在しているくらいである。刑法学における議論が人工妊娠中絶の問題に終始している状況にあって,優生思想を具体化した規定に対しての明確な批判を加えた刑法学者として金沢文雄の見解が注目される。1984年の著書106において,「優生保護法第一条は『優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する』という目的を掲げているが,こ100 本稿末尾の別表参照。本別表については,1997年に福岡県庁健康増進課から提供していただいた。記して感謝申し上げる。101 第3 条の当事者の同意に基づく優生手術を含めると1956年の実施件数(44,485件)が最多となる。102 吉田哲彦「優生保護法をめぐる最近の話題」『日本医師会雑誌』第115巻第12号(1996年)2018頁によると,「このケースは,平成4 年,出産経験のある中程度の精神薄弱者で,本人の同意があった。精神病者,精神薄弱者には,本人の同意による手術の規定(第3 条)が適用除外となっているため,第12条を適用して,保護者の同意と審査会の審査により行った。」とのことである。103 石井・前掲注(17)151頁においても,「人工妊娠中絶の爆発的増加に対して,優生手術の実施件数は僅かである。」との紹介がされている。104 小松進「医療と刑罰」『現代刑罰法大系 第3 巻』(日本評論社,1982年)81頁以下。石原明「性転換に関する法律問題」『医療と法と生命倫理』(日本評論社,1997年)55頁以下。同「性転換はタブーか? 性転換と戸籍性別の変更可能性」『法と生命倫理20講』(日本評論社,1997年)75頁以下等。105 田中圭三「『胎児の生命の尊重』の面からみた優生保護法の一改正案」朝倉京一=阿部純二=下村康正=森下忠編『八木國之先生古稀祝賀論文集 刑事法学の現代的展開(上巻)』(法学書院,1992年)354頁以下。また同「優生保護法三四条の保護法益の面から見た本法の問題点」中山研一先生古稀祝賀論文集編集委員会『中山研一先生古稀祝賀論文集 第一巻 生命と刑法』67頁以下では,優生保護法第34条の保護法益にその活用を阻むものが存在することを明らかにしている。なお,我妻も計画外妊娠を避ける為に「不妊手術」がもっと考えられるべきとの見解を示している。我妻・前掲注(87)29頁等。中山・前掲注(65)14頁も同旨。106 金沢・前掲注(52)。