高知論叢102号

高知論叢102号 page 66/222

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64 高知論叢 第102号れは,人間を『不良な子孫』と『優良な子孫』とに差別し,『不良な子孫』の生存権を否定するものである。本法は,『生きる価値のない生命の毀滅』を行ったナチの思想と通じるものであって,『人....

64 高知論叢 第102号れは,人間を『不良な子孫』と『優良な子孫』とに差別し,『不良な子孫』の生存権を否定するものである。本法は,『生きる価値のない生命の毀滅』を行ったナチの思想と通じるものであって,『人間の尊厳』の原則に違反し,日本国憲法第13条,第14条に反するといわなければならない。また,『公益上必要』なときは『強制的優生手術』を行うことができるとされている点も,人権を無視した規定である」107と述べている。更に,優生保護法第14条第3項108についても,「意思能力のない者に対して保護義務者の承諾だけで中絶を認めることも人権保護の上から問題である」109と批判する。精神障害者に対する強制手術に関しては,他に大谷實110からも問題提起がなされている。大谷はその著書111のなかで,「近年知的障害者に対する子宮摘出手術や保護者の同意に基づく強制人工妊娠中絶が問題となっており(一九九三年七月一六日毎日新聞朝刊),知的障害者の子供を産む権利をどのように考えるかが問われているところです。」112 と指摘している。また,1990年の著書では,強制的な優生手術の必要性に疑問を投げかけている113。しかし,一方で大谷は,胎児診断による中絶については「まさに親の基本的人権ないし幸福追求権保障の問題」114であるとして,これを認めている。しかもその際の論拠として「や107 金沢・前掲注(52)151頁。108 当時の条文は以下の通り。「人工妊娠中絶の手術を受ける本人が精神病又は精神薄弱者であるときは,精神衛生法第二十条(後見人,配偶者,親権を行う者又は扶養義務者が保護義務者となる場合)又は同法第二十一条(市町村長が保護義務者となる場合)に規定する保護義務者の同意をもって本人とみなすことができる。」 ここで「保護義務者」の同意となっているのは,当時の精神衛生法によっている為である。109 金沢・前掲注(52)151頁。110 大谷實『〔新版〕いのちの法律学』(悠々社,1994年)。111 大谷・前掲注(110)。112 大谷・前掲注(110)36頁。113 大谷實『医療行為と法〔新版〕』(弘文堂,1990年)93頁以下及び203頁。114 大谷・前掲注(110)45頁。同書44頁において大谷は小児科医でもある松田通雄の次の発言を引用している。「一人の子供がいて,それに先天的な異常があって夫婦で非常に苦労して育てている。もう一人こういう子ができたら自分たちは家庭をやって行くことができないという場合に,次の子が正常な子か,あるいは異常な子であるかを選ぶ権利というものは,その親たちの人権として当然あると思うんです。だから羊水診断そのものがいけない,あるいはそれを差別であるというふうにはいえませんね。ある特徴を持った人間を差別することと,自分たちが起こりうる不幸から身を守ることとは,直接つながらないというふうに思うんです。羊水診断は,今までに達している医学の水準で,十