高知論叢102号

高知論叢102号 page 67/222

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旧優生保護法と刑法学65や視点を異にするというものの,遺伝病については,すでに優生学的見地から中絶が認められているのですから,現行の優生保護法も胎児条項を絶対に否定するものではな」115いということを挙げ....

旧優生保護法と刑法学65や視点を異にするというものの,遺伝病については,すでに優生学的見地から中絶が認められているのですから,現行の優生保護法も胎児条項を絶対に否定するものではな」115いということを挙げ,胎児条項は「優生保護法を改正しなくても,母体保護の観点から中絶が許される場合に当たるように思います」116と述べている。そうすると,胎児診断による中絶については,これを優生思想との関係で批判的に検討するという視点は,この時点では弱いといい得るのかもしれない。あるいは,当時の優生保護法のなかに胎児条項を読み込むことで問題をやり過ごそうとすることになってしまったのであろうか。本稿で検討してきた通り,優生保護法の議論において,刑法学は正面から優生思想の克服を目指した検討が行われることは,金沢の見解まで見受けられなかったが,その原因の一端は,検討の対象を堕胎罪の検討にとどめてしまい,その対象とされる者の社会におかれている状況の洞察までは及ばなかったことが考えられようか。この点が,先に見た丸本の見解と刑法学の見解の距離に表れているようにも思われるのである。新たに生じた問題を法律の解釈によって解決へと導くのを法律学の専らの仕事だとすると,既存の法が抱えている問題に暗くなるのは当然の帰結である。優生保護法はまさに,強制手術を許容する思想的背景をもっていたのであろうか。上記のような問題が,母体保護法の制定(優生保護法の改正)によって解決されたかについては,稿を改めて検討することとしたい。分安全にできることです。人工流産ということも他の理由,いろいろ経済的理由でも認められているから,羊水診断をやって次の異常な子を産むまいというのは,それこそ患者というか,その人の基本的人権だろうと思うんです。(加藤一郎=森島昭夫編『医療と人権』(1985年)200頁)」 出生前診断は妊婦に対する重圧にもなり得ることを指摘するものとして,松尾智子「出生前診断の法的及び倫理的問題の解明に向けて」『九大法学』第74号(1997年)141頁以下等がある。115 大谷・前掲注(110)44頁。116 同前。