高知論叢102号

高知論叢102号 page 72/222

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70 高知論叢 第102号近年,水需給の調整手段が追加的に必要になる背景として,しばしば気候変動が挙げられるが,これだけではない。②ダム等のコンクリートの構造物の物理的耐用年数は70-80年であるが,1950年代以....

70 高知論叢 第102号近年,水需給の調整手段が追加的に必要になる背景として,しばしば気候変動が挙げられるが,これだけではない。②ダム等のコンクリートの構造物の物理的耐用年数は70-80年であるが,1950年代以降に建設されたダムは2020年代以降に寿命を迎え,撤去・延命・更新・新規立地の判断を迫られる。このうち,ダムなどの大型の構造物の新規建設は,財政的にも社会経済的にも困難であり,環境影響からみても望ましくない。また,現状の技術を前提とすると,④のうち脱塩装置の導入はコストが高く,離島などの場合を除いて現実的ではない。このような状況の下では,水の需給の調整方法として,①地下水の利用・③渇水時の調整・水利権又は水取引・④処理水の再利用や水利用の効率化が非常に重要になる。③ ・④は別稿に譲り5・6,以下では①地下水の利用に焦点を当て,地下水の持続的利用を可能にするための法制度について検討する。具体的な論点に入る前に,日本における水資源問題における地下水の位置付けについて述べておきたい。地下水は水が浸透した土壌である帯水層から汲み上げることになるが,帯水層は土地所有権の区画とは一致せず,複数の土地所有者が一つの帯水層を共同で利用することになる。これまで,温泉の利用・管理については,村落共同体の慣習をベースに温泉権が発達してきたが,近代化まで自然に噴出する地下水が利用されていたに過ぎない。しかし,大正期の深井戸掘削機の普及,1950年代以降の再工業化・電気ポンプの普及によって地下水の開発が盛んになり,主に都市部で地盤沈下が激化した7。そのため,本土の多くの地域では地下水のそれ以上の開発をあきらめ,地表5 日本では,異常渇水時の水利権者間の調整が重視されている(53条)。次に,水利権取引は,河川法上可能だが(34条),実務上,あまり利用されていない。また,最高裁は,水取引は現行の河川法上は認められていないと判示した(三田用水事件・最判1969・12・18訟月15巻12号1401頁)。しかし,実務上は農業用水から都市用水へのヤミ転用が行われている(志免町給水拒否事件・最判1999・1・21民集53巻1 号13頁)。そこで,河川法改正により水取引導入の可能性が議論されている(松本近刊,454頁を参照)。6 渇水の年に利用することを目的として,豊水の年に得られた余剰の水を地下に貯水することを接続的利用(conjunctive use)といい,帯水層をいわば地下のダムとして利用するものである。カリフォルニア州では,地下水の涵養・地盤沈下の防止・海水の浸入の防止のために,地表水や下水を高度処理した水を帯水層に注入する取り組みが一般的である。日本では,南西諸島において雨水を帯水層に浸透させる手法が使われているが一般的ではない。なお,後掲 3-4 は(争点にはなっていないか)接続的利用の例である。7 阿部1981,223頁。