高知論叢102号

高知論叢102号 page 73/222

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地下水法の現状と課題71水の開発に力を注ぐようになった(8 後掲3-1 において若干論ずる)。これに対して,南西諸島などの島嶼部や熊本県熊本市などの火山性土壌の地域は,日常生活や生産活動に必要な水資源を地下水....

地下水法の現状と課題71水の開発に力を注ぐようになった(8 後掲3-1 において若干論ずる)。これに対して,南西諸島などの島嶼部や熊本県熊本市などの火山性土壌の地域は,日常生活や生産活動に必要な水資源を地下水に依存しているが国内では例外的である。このような経緯から,地下水は全ての水利用のうち取水ベースで12% を占めているにとどまる(註3 )。今日,日本が地下水をめぐって直面する問題は,過剰な採取や地盤沈下だけではなく,多様化・複雑化している。地下水は,家畜排せつ物や肥料による硝酸性窒素汚染や工業起源の化学物質による汚染リスクを抱えている9。さらに,全国的にみると,水源林の近辺での廃棄物処分場の建設による地下水の汚染・枯渇のおそれや,海岸近くにおける地下水の採取による帯水層への海水の浸入,さらに,外国人による森林買収の事例も報告されている10。このような問題に直面し,沖縄県宮古島市では,地下水の利用・管理全般に関する「地下水保護管理条例」を制定し,1965年の制定以来,40年以上にわたって数度の大改正により問題状況の変化に対応してきた11。これに対して,旧紀伊長島町(現三重県紀北町)は,水道水源保護条例により廃棄物処分場による過剰な採取を規制しようとしたが,最高裁は処分場側の主張を大筋で認め,差戻し控訴審判決は処分場側の請求を認容した(後掲3-4)。そこで,本稿では,上記のような問題状況を踏まえ,地下水の持続的利用を可能にする法制度について,次のような順序で考察する。まず,「地下水への権利」の法的性格と法的救済の方法について検討する(第2 章)。さらに,地下水保全条例による「地下水への権利」の内容の明確化・権利行使の規制の可否・可能である場合の制度設計について,旧紀伊長島町水道水源保護条例事件を通じて検討する(第3 章)。最後に,本稿で検討した内容を要約し,今後の課題を探る(第4 章)。8 三本木1999,125頁。9 サンゴ礁の白化の主な要因は海水温の上昇であるが,南西諸島においては,家畜排泄物や肥料から硝酸性窒素が発生し,富栄養化した地下水が海に流入し,白化に拍車をかけている可能性が指摘されている(中西2009)。10 国土交通省2011,102-103頁及び林野庁2011,57頁(表Ⅲ-2)。11 先行研究として,柴崎他1975・阿部1981・阿部1985・小川2002などがある。