高知論叢102号

高知論叢102号 page 74/222

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72 高知論叢 第102号2 「地下水への権利」の法的性格と法的対応方法地下水は,土地への権原を契機としてしかアクセスできないから,利用者の排除は容易であるが,土地への権原を持つ者による過剰な利用の排除は困....

72 高知論叢 第102号2 「地下水への権利」の法的性格と法的対応方法地下水は,土地への権原を契機としてしかアクセスできないから,利用者の排除は容易であるが,土地への権原を持つ者による過剰な利用の排除は困難である。また,「地下ダム」としての帯水層の水圧の維持(地盤沈下の防止)や水質の維持は容易ではない12。以下では,地下水の利用の前提となる地下水への権利の法的性格を検討し,さらに,地下水及び帯水層を持続的に利用するための法的対応方法について検討する。2-1 権利濫用の法理2-1-1 事件の背景原告X は,1930年代半ばまで泉水を利用して庭園を演出することによって料理屋を営業していた。しかし,隣地の所有者Y は,後から鱒の養殖を始め,X が庭園の演出に使っていた泉水が枯渇した。X は,井戸の掘り下げなど採取施設を改善するために追加的な支出を余儀なくされた。そこで,X は,地下水位の低下はY による権利濫用によって起きたとし,過剰な採取の差止めと追加的支出について損害賠償を請求した。Y は,自分が所有する土地において必要な限度で地下水を使用しただけで,X に損害を与える目的はなかったと反論した(慣習に関する論点は主な争点ではないので省略する)。2-1-2 大審院1938年6 月28日判決とその含意これについて,大審院は,次のように述べ,X による損害賠償請求を認容し12 地下水は,地表から地下に水が浸透することによって帯水層に涵養される。帯水層には土地所有権その他の権原を持つ者だけがアクセスできるが,帯水層は土地所有の区画と無関係に存在するため,複数の地下水利用権者が同一の帯水層にアクセスすることになる。安全採取量とは,狭義には涵養量以内の採取量(最適採取量)をいうが,広義には社会的に許容できる期間で地下水を枯渇させる採取量をいう(Getches 2009, pp. 290-291)。ある権利者が安全採取量を超えて取水すると他の権利者の取り分は減るため,採取競争が起きやすい。地下水利用権は「所有権に附随する(しない)」「共同性を持つ」だけでは問題は解決せず,配分原理が決定的に重要になる(2-1-4・2-2-4・3-4-3 を参照)。