高知論叢102号

高知論叢102号 page 75/222

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地下水法の現状と課題73た。土地所有者は,その所有する土地において地下水を取水する権利を持つが,許容される権利行使は他者の権利を侵害しない程度に限られる。もし取水による他者の権利侵害が許容限度を超える場....

地下水法の現状と課題73た。土地所有者は,その所有する土地において地下水を取水する権利を持つが,許容される権利行使は他者の権利を侵害しない程度に限られる。もし取水による他者の権利侵害が許容限度を超える場合には,その権利行使は濫用すなわち不法行為にあたり,損害賠償責任を負う。本件では,Y はX の営業を知りつつ許容限度を超えた採取をしており権利濫用に当たる13。本判決の含意は次のように要約できよう。まず,地下水への権利は,民法206条・207条を文言通りに解釈すると土地所有者の所有権に附随することになる(地方にこれと異なる慣習が存在し,慣習が公序良俗に反しない限りは,こちらが優先される。法の適用に関する通則法3 条。詳細は2-2-4で後述)。次に,土地所有者同士の紛争では,許容限度を超える利用は権利濫用とされる。しかし,この判決の2 週間後に,上記の事件と異なり権利濫用を認めない判決が出ており14,学説は大審院が混乱していたと指摘する15。本判決について,民法典が採用する沿岸権法理を判例法によって専用権法理の一類型に置き換えたものであるとする説もあるが(Ramseyer 1989),以下検討するように日本の「地下水への権利」は地下水利用権であり,沿岸権法理の一類型である相関権に近い16。2-1-3 判決に対する学説からの批判土地所有者が好き放題に採取できるとすると,採取競争が起きてしまう。土地所有者が「地下水への権利」を持つというだけでは,採取競争の問題は解決しない(前掲註12)。我妻榮は,上記の判決を次のように批判する。地下水の利用についても河川の流水の利用に準じた扱いをすべきである。すなわち,13 大判1938・6・28新聞4301号12頁。14 大判1938・7・11新聞4306号17頁。15 阿部1981,223-231頁。武田1942,220-232頁及び233-267頁。16 アメリカ水法において,沿岸権とは,流水の沿岸の土地所有権に附随する水利権であり,専用権とは,先に取水を始めたものが土地への権原と無関係に獲得する水利権である。相関権法理の下,採取量は,面積に応じて比例配分され,土地の区画内で使用されること及び有益的使用に供されることという制限がつく(Sax et. al. 2006, pp. 416 and 429-433 andGetches 2009, pp. 269-273)。日本法の「地下水への権利」の性格と内容は,2-1-4及び2-2で検討する。