高知論叢102号

高知論叢102号 page 76/222

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74 高知論叢 第102号(a)あるものが法令又は慣習によって専用権を持つ場合には,専用権を持たない者は専用権を侵害しない限りでのみ地下水を利用できる。(b)誰も専用権を持たない場合には,各土地所有者は地下水を平等に利用する権利を有する。一人の過剰な採取によって他の所有者の利用が不可能になる場合には,当事者は,地下水を平等に分配できる道を講ずるべきである。しかし,かような分配は,法令の規定ないし和解によるならともかく,裁判によって実現することはできないとするのが判例通説である17。2-1-4 私 見何人も水へのアクセスを拒まれるべきではない。しかし,地下水の採取量の上限と配分原理を明確にし,これらを実現するためのルールがなければ,地下水に物理的にアクセスできる土地利用権者の間の採取競争は防げず,誰も保護されない。本件において,判決が損害賠償請求を認めたことは支持できる。しかし,より望ましいのは,次のような解決である。すなわち,まず,最適採取量から安全採取量を算出し,安全採取量を権利者に配分する原理や配分の際の考慮要素を明示する1(8 註12及び後掲3-4-3)。次に,相隣関係を拡大した「地域的公序」として安全採取量を配分し,X による取水を配分量以下に制限する技術的手段がある場合にはその手段をとることを命じ,さもなければ差止請求を認容することであったと思われる19・20。17 我妻1952,183-184頁。なお,本件の地裁判決は, 本来なら当事者間の協定によって採取を管理すべきものであるとしつつ,権利濫用の法理を適用し損害賠償請求のみを認容した(東京地判1935・10・28新聞3913号5 頁)。18 我妻説は,平等な配分原理を謳うことから,後述する相関権法理に近い。しかし,「平等」が,土地の面積に応じて土地所有者間での比例配分なのか,土地所有者の頭数での均等配分なのか,別物なのかは明らかではない。これに対して,武田軍治は,やや踏み込んだ見解を示す。すなわち,相互の関係において社会観念上相当と認められる範囲が限度となる。その範囲を画定する基準として,取水開始の時間的先後関係は考慮要素となるものの,水の利用目的・所有地の広狭・土地の形状等も勘案すべきである(武田1942,229頁)。19 武田1942,225-227頁は,根拠として不法行為も挙げており(特に227頁),法的根拠と対応方法の関連について曖昧さが残る。20 牛尾2006,82-85頁,松本2006,320-323頁,鈴木2009,65-73頁及び池田2010,131-132頁を参照。ここで「地域的公序」の概念について補足しておきたい。松本2006,320-323頁は,入会権・漁業権・慣行水利権の競合によって形成された地域の慣習的秩序を財産