高知論叢102号

高知論叢102号 page 81/222

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地下水法の現状と課題79なぜなら,地下水は,地表の土地の構成物ではあるが,土地所有者の完全な支配には服さないからである(その表れが所有者の意思と無関係に一つの区画から別の区画に移動することである。註12も....

地下水法の現状と課題79なぜなら,地下水は,地表の土地の構成物ではあるが,土地所有者の完全な支配には服さないからである(その表れが所有者の意思と無関係に一つの区画から別の区画に移動することである。註12も参照)。そのため,地下にある状態では所有権の客体にはならないが,地下水利用権に基づいて取水された後には所有権の対象とすることが可能である。ただし,地下水利用権について,民法と異なる旨の地方の慣習がある場合には,法令の規定及び公序良俗に反しない限り,その慣習が優先される(法の適用に関する通則法3 条)25。さらに,地下水利用権は,地表の土地所有権から分離可能で,譲渡も担保に供することもできる26。また,国が法律の定めによって地下水の位置付けを変更し,「公水」「公共的資源」とすることは可能である(民法206条・207条)。確かに,民法175条は,「物権は,この法律その他の法律に定めるもののほか,創設することができない」と規定する(民法施行法35条も同旨)。しかし,民法典は,既存の慣習上の権利を全て排除したわけではなく,経済合理性がある場合にはこれを維持しようとしている(入会権に関する263条及び294条の規定)。また,法の適用に関する通則法3 条は,地方の慣習が公序良俗に反しない限り,それが近代的なものであってもなくても,法的に有効であることを認める(公水条例の適法性については第3 章で議論する)。次に,行政事件・民事事件の判決について述べる。まず,行政事件については,次のように考える。(a)原告の内湯設置の公安公益への影響は,認定された事25 地域的公序の概念には不明確さが残るが,本稿のテーマに則して私見を例示する。公序良俗違反の慣習とは, 男女差別や特定個人の理由なき排除を許容する慣習などをいい,かような慣習は法的効力を持たない(当然である)。これに対して,地下水の安全採取量及び地下水利用権の配分原理を明確化する慣習は,地下水利用権の競合(相互掣肘)から生まれており,特定の地下水利用権者を一方的に不利益に扱うものではないから,地域的公序を明確にするものとして法的効果を認めうる。しかし,地域的公序を明確化した慣習であっても,狙い撃ち的に運用されるとその限りで効力を失う。後述するように,本稿は,このような慣習と条例を条件付きで連続的に捉え,地域的公序としての内実を備えた条例をも正当化する。ただし,この議論の適用範囲は,自然資源に関する秩序で,相互掣肘による秩序がある程度有効に機能している状態に限られる(例えば,神奈川県臨時企業税条例が同じ論理で正当化されるとは考えていない。後掲註46)。26 川島1994,126-184頁。