高知論叢102号

高知論叢102号 page 82/222

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80 高知論叢 第102号実から判断する限りないと思われる。内湯禁止の慣習は,解体しつつあったが消滅しておらず,公序良俗にも反しないこと,及び,原告の採取によって他の温泉に影響が出ている状況が伺えるから,取....

80 高知論叢 第102号実から判断する限りないと思われる。内湯禁止の慣習は,解体しつつあったが消滅しておらず,公序良俗にも反しないこと,及び,原告の採取によって他の温泉に影響が出ている状況が伺えるから,取消請求は棄却するべきであった。また,民事事件については,次のように考える。湯島区(Y2)は,地下水を所有することはでず,この点は明治初年段階でも同じである(b につき判旨に賛成)。また,慣習については「事実=規範」であるところ,註22のような事実が認められるから,湯島区には温泉専用権があったと思われる(判旨に反対。前述c・d・e・f のうちd に近い)。地下水利用権の性格上,X による取水を一定量以下に制限する技術的手段がある場合には埋め戻しを命ずることはできないが,制限できない場合には埋め戻しを命ずることができる。さらに,本件の事実関係において,不法行為に基づく損害賠償請求も認容される27。2-3 小 括民法典は,地方にそれと異なる旨の慣習がない限り,地表の土地所有者に地下水についても絶対的な権利を与えるように見える。しかし,日本の裁判所は,米国水法にいう相関権法理の一類型と解釈できる独自の権利濫用の法理を作りだした。この法理の下では,地表の土地の所有者も,受忍限度を超える損害を与えた場合には,裁判例上,不法行為による損害賠償責任を負う。もっとも,相関権は,論理的には相隣関係を発展させた法理であるが,今後は,権利濫用の法理・不法行為との論理的な関係を明確化すべきである。また,地域共同体は,その地域の慣習が公序良俗に反しない限り,慣習に基づく地下水利用権を持つことができる(温泉権を含む)。しかし,新住民の転入・旧住民の転出等の事情により,地域共同体が解体した場合には権利は残存するものの秩序の再編が必要になり,地域共同体が消滅した場合にはその権利27 川島1994,84-94頁。民事差止請求の根拠としては, 物権としての地下水利用権に基づく請求と人格権(平穏生活権・浄水享受権)に基づく請求がありうる。これらの関係について, 裁判例は, 後者の方が保護法益が広いことから, 後者による請求のみを認容している(丸森町廃棄物処分場訴訟第一審決定・仙台地決1992・2・28判時1429号109頁,福島地裁いわき支判2001・8・10判タ1129号180頁など。詳細は別稿に譲る)。廃棄物処分場設置の差止め請求という事件の性格にもよるが,これらの裁判例において,地下水利用権の配分原理が示されていないことに注意を促したい。