高知論叢102号

高知論叢102号 page 85/222

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地下水法の現状と課題83合性を論ずるだけでは不十分である。次に,憲法29条1 項は私的財産権を保障するが,2 項はその内容について公共の福祉に適合するよう法律で定めるとする。そして,民法175条は「物権は,この....

地下水法の現状と課題83合性を論ずるだけでは不十分である。次に,憲法29条1 項は私的財産権を保障するが,2 項はその内容について公共の福祉に適合するよう法律で定めるとする。そして,民法175条は「物権は,この法律その他の法律に定めるもののほか,創設することができない」とする。さらに,206条は「所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する」とし,207条は「土地の所有権は,法令の制限内において,その土地の上下に及ぶ」と規定する。もし,「法律」が文字通り国の「法律」だけを指し「条例」を含まないとすると,地下水利用権を制限する条例は,憲法29条2 項及び民法に適合しないということになる。実際,有力な学説は,次のように議論する。すなわち,物権法定主義を定める民法175条が「法令」ではなく「法律の定めるところによる」と規定するのは,個人を封建的な諸関係から解放すると同時に,全国的に一律な財産権のみを許容することによって取引の安全性を高め効率化を図るためである30。この議論によると,条例によって水利権の内容を明確化したり制限したりする規定を置くことは,仮に法律によって先占されていなくとも許されないことになることになる31。そこで,次に,条例に地下水利用権の内容を明確化・変更・制限する規定を置くこと 例えば地下水を公水とし採取を許可制の下に置く公水条例 の可否について検討する。既に述べたとおり,民法175条及び民法施行法35条は,一見,法律によらない財産権の内容の変更や制限を排除しているようにも読めるが,入会や水利権等の地方の慣習は排除されていない。さらに,法の適用に関する通則法3 条は,公序良俗に反しない慣習は,これを禁じる法律が存在しない限り,法律と同一会建設委員会第20号・1962年4 月5 日)。すなわち,齋藤常勝政府委員(建設省住宅局長・当時)は地下水が「所有権の対象」であることを前提として「規制をしていくことになった」とする。しかし,山内一郎政府委員(建設省河川局長・当時)は[地下水は公水かという趣旨の質問に対して]住宅局長のような考え方もあるが学説は分かれていると答弁している。30 原田2005,65頁及び森村1994,14-17頁を参照。また,雄川1986,274-281頁も参照。31 この批判は,宮古島市地下水保全条例や(旧)紀伊長島町水道水源保護条例のように水利権の内容を制限するタイプの条例にとって深刻である。