高知論叢102号

高知論叢102号 page 94/222

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92 高知論叢 第102号この見解は,地下水利用権の概念(特に地下水の配分原理)をより明確化したものであり,条例に基づくもので国法に基づくものではないが本稿第2 章の議論と整合的である。最高裁は,地下水利用権....

92 高知論叢 第102号この見解は,地下水利用権の概念(特に地下水の配分原理)をより明確化したものであり,条例に基づくもので国法に基づくものではないが本稿第2 章の議論と整合的である。最高裁は,地下水利用権の概念に触れていないことから,高裁の見解を前提としているように思われる。もし,この理解が正しければ,最高裁の判断は支持できる。しかし,配分原理とその科学的根拠について,明示的に議論すべきであった。なお,下級審の事実認定(及びそれを前提とする最高裁判決)は,水収支法に基づいて計算された当該井戸の地下水採取による影響を過大評価しているとの鑑定書が国家賠償訴訟において提出された(頁番号は参照箇所を示す)48。蔵治鑑定書は,議論の混乱の原因として,水収支を本件施設の敷地単位で検討するという方法論に無理があり,流域単位で検討すべきことを指摘する( 4頁)。そのうえで,過大評価の原因について,気象観測システム等の観測データの無視による降水量の過大評価・蒸発散量の推定方法の誤りによる可能蒸発散量の過大評価等にあるとする(35頁)。蔵治鑑定書が指摘する事実認定の誤りは,補正されるべきであると考える。その上で,「水源の枯渇(取水施設の水位を著しく低下させること)をもたらし,又はそれらのおそれ」(本件条例2 条3 号)について,そのような可能性を否定する。その理由は,原告による95? / 日の取水による三戸川の地下水流出量への影響は,通常0.15%・渇水期0.25%だからである。本件条例を文言通りに読むと,水源の枯渇の可能性について,敷地単位ではなく流域単位で検討すべきだという主張にも一理ある。しかし,その影響は,流域面積に占める原告の所有する土地の面積の割合(0.00029%)からすると過大な影響である。仮に,他の地下水利用権者が本件原告と同様の取水をした場合には全体として井戸の水位を著しく低下させるおそれがある。むしろ,流域全体の安全採取量に照らして,原告個人の採取量が妥当な範囲に収まっているか否かという観点から,敷地単位で上限を判断すべきである(註12を参照)。そして,委員会は,採取量を平均的な年には95? / 日から63? / 日に・渇水48 蔵治・田中2011(蔵治執筆部分。以下「蔵治鑑定書」)15-35頁。なお,蔵治鑑定書が指摘する農業部門からの水融通(24-25頁)は,現時点では進んでいない(註5)。