高知論叢102号

高知論叢102号 page 96/222

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94 高知論叢 第102号4 地下水保全条例の合憲性・適法性と今後の課題本稿では,まず,温泉権等における議論を参照し,日本の「地下水への権利」が地下水利用権という用益物権であり,慣習上の地下水利用権は相隣関....

94 高知論叢 第102号4 地下水保全条例の合憲性・適法性と今後の課題本稿では,まず,温泉権等における議論を参照し,日本の「地下水への権利」が地下水利用権という用益物権であり,慣習上の地下水利用権は相隣関係の延長線上にあり公序良俗に反しない限り,地域的公序として適法であることを示した。しかし,温泉権に関する議論において地下水利用権の配分原理は示されていなかった(第2 章)。これに対して,紀伊長島町水道水源保護条例は,帯水層を地下水利用権者が共通で利用するという「拡大された相隣関係」に基づき,流域単位で安全採取量を同定したうえで,土地所有面積に応じて比例配分という配分原理を明確化するものである。確かに,本件では,条例が狙い撃ち的に制定・適用されたために協議手続が不十分であり,認定処分は違法と判断された。しかし,同種の条例は,過剰な採取競争を防ぐための地域的公序を確認したものといえ,条例制定権の範囲内で制定される限り適法である。もっとも,この判決の科学的根拠については誤りがあり,この点については修正が必要である。地下水保全条例等の多くは,独自の目的を持つ。最高裁の枠組みを前提にしても,狙い撃ち的な制定・運用を避け,水源保護地域を不当に広げず,採取量の規制にとどめる限り,概ね国の法令の効果を阻害することはない。仮に,法律と条例の目的が同一の場合でも,分権改革後の法律は,自治体の実情に応じた条例を可能な限り容認しなければならず,条例に固有の意義と効果・合理性(本件では厳格な合理性)があれば適法である(第3 章)。本来,地下水の保全と利用は,膨大な水文学的な知見を必要とするから,なるべく条例ではなく国の法律で管理すべき事項である。地下水の保全と利用を規律する法律を制定する際には,流域単位で安全採取量と地下水利用権の配分原理を示すとともに,既存の地下水保全条例等を活かす枠組み的な法律を制定すべきである。また,過剰な利用を防ぐ仕組みだけではなく,地表水と地下水を一体として管理・利用する「接続的利用」の仕組みを入れるべきである50。50 米国カリフォルニア州には,連邦・州レベルの包括的な地下水法はない。その隙間を埋めるため,地下水の採取規制・人工的涵養を郡等が条例で制定したり自発的合意により進