103号

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52 高知論叢 第103号影響力はないに等しい。これが,統帥権濫用を招いたものである。軍令のみが君主の下に独立し,軍政,軍制は議会,文官の規制を受けるという,憲法制定以前における井上毅ら文官の理解は次第に消....

52 高知論叢 第103号影響力はないに等しい。これが,統帥権濫用を招いたものである。軍令のみが君主の下に独立し,軍政,軍制は議会,文官の規制を受けるという,憲法制定以前における井上毅ら文官の理解は次第に消滅し,すべての軍関係の事項は文官から独立する,これが日本の統帥権独立であった。軍令部,参謀本部は,軍令が,帷幄の中,有事軍事作戦上のことであり,陛下の大権にあるが軍隊や艦隊の編成権,すなわち軍制や軍政の権限が内閣にあるとする文官とすべて天皇大権として政府から独立しているとする考えが対立したままで,憲法制定以前において玉虫色の決着が図られた。陸軍は,参謀本部だけではなく陸軍自体も閣議に拘束されないとする主張を展開する。文官はこれを批判するが,陸軍はあくまで軍全体を軍衙とみなし,文官から独立する主張を行った。表4に統帥に関する明治初年の事項を示した。憲法草案作成の中心となった井上毅は,軍政に関しては陸軍の見解に従うだけであり,憲法の軍制,軍政に関する陸軍案に対して「陸軍提出案ニ付意見」として伊藤博文に意見を述べるに留まった。陸軍の軍制,軍政意見は,平時の兵額(軍事費)は軍制の一部でありもっぱら天皇大権に属し,また軍幹部官制も親裁に属し内閣閣議を経ず陸軍大臣の責任で勅令で宣布するとするものであった。また陸軍案では陸軍省自体を大元帥に直属し,参謀本部と同一とみなした。井上毅は,軍令は天皇大権に属するが軍制,軍政は国務事項であり,内閣閣議を経るべきであると述べた。また井上は陸軍大臣はあくまで一人の国務大臣であり,陸軍省の見解は陸軍大臣を軍衙とみなすものであるとしてこれを批判したがこの批判は軍に至らず,伊藤博文に意見表明するにとどまった。軍令についてのみこれを統帥事項として,陸軍の主張を容認した。陸軍の主張と文官を代表する井上毅の主張は対立したまま玉虫色の決着がなされ,以後帝国議会において軍事費聖域化をめぐって絶えず紛議となる。以上のように,政府内における憲政に軍制を如何に位置づけるかについて文官と武官の間に意見の相違があったが,政府と議会の関係に関しても同様な混乱があった。明治24年帝国議会の予算審議において,予算は天皇の裁可を受けて議会に提出しており,議会はこれを自由に討議できないという動議が官僚派から出され