103号

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60 高知論叢 第103号靴製造中に剰余価値を身につけたのではない。」(Ibid.,Ⅰ, S. 180)蓄積財源をつくる労働を剰余労働とみなす見方には,労働者からひきはなされた生産条件の排他的所有がはたす作用の看過がある....

60 高知論叢 第103号靴製造中に剰余価値を身につけたのではない。」(Ibid.,Ⅰ, S. 180)蓄積財源をつくる労働を剰余労働とみなす見方には,労働者からひきはなされた生産条件の排他的所有がはたす作用の看過がある。そこには,生産条件の排他的所有をもって労働力の商品への転化にのみかかわらせるという狭量な観点がある。いったい,階級関係は,労働者の生活条件や労働時間に影響力をあたえないのであろうか。もし,労資関係が生活条件や労働時間にかかわるとすれば,それが必要労働や労働日と不可分だということになり,蓄積財源をつくる労働と剰余労働との短絡はゆるされないことになる。そもそも「剰余価値 資本家が前貸しした価値の等価をこえる価値 」(Ibid.,Ⅱ, S. 385)という表現が明示するとおり,剰余価値とは,前貸しされた価値4 4 をこえるその超過分として概念規定される点に極力注目すべきである。剰余価値の概念規定(第4章第1節)は,それに後続して剰余労働(第7章第1節)と剰余生産物(同第4節)の規定があたえられるという論理的な先後関係をふくんでいる。じっさい,マルクスにあっては,剰余労働の創造は,労働力商品の売買を媒介にしてはじめてとかれる。つまり,価値の前貸を基礎にして,創造された剰余価値の実体として剰余労働が説明される3)。労働者は,生産条件を所有する独立生産者としては1労働日全体を構成する必要労働しか支出しない一方,生産条件からの分離に対応して,必要労働分量の圧縮とそれをこえる労働日の延長という正反対の方向性をもつ作用をうける。延長される労働日と圧縮された必要労働との差額が,生産条件の排他的所有に強制された剰余労働である。だから,労働者からの生産条件の分離は,たんに労働力の商品への転化を規定するのみならず,その価値と使用価値の両面を特殊歴史的に規定する4)。剰余労働は,圧縮された必要労働の表現である労働力の価値と独自に規定されたその使用価値という二つの特殊歴史的な要素のもたらす果実にほかならない。したがって,労働力商品の概念樹立のもつ意義は,たんに価値法則との整合性の問題だけに還元されない5)。マルクスは,労働力商品と価値法則との関係の詰めのみならず,剰余労働を生産条件の排他的所有の独自な産物として説明し,古典派経済学のコペルニクス的な転回をなしとげた。