104号

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天皇親政体制の虚実5は太政官,軍務は(征夷)大将軍に委任し,裁断のみを自ら行ってきた。代々の中国皇帝政も同様であった。『記紀』に描かれた日本の王家が,渡来系の豪族の首長によって担われ,或いは担がれて即....

天皇親政体制の虚実5は太政官,軍務は(征夷)大将軍に委任し,裁断のみを自ら行ってきた。代々の中国皇帝政も同様であった。『記紀』に描かれた日本の王家が,渡来系の豪族の首長によって担われ,或いは担がれて即位したことはいまや異論を唱える者は少ない。渡来人系豪族(『記紀』神代紀では天津神)は在来豪族(『記紀』神代紀では国津神)の首長を支配,連携して諸国を連合させたことは『記紀』からも『漢書』からも明らかである。在来豪族も元を遡れば渡来人であることに変わりがない。政務,軍務,神祗を委任された有力豪族は,物部氏,葛城氏,蘇我氏,中臣氏等へと変遷した。最終的な裁断のみを天皇が下す建前であり,文書には親鈴を付すことが親政であった。重量がある印は側近が押印する。天神地祗とは『記紀』に頻出する漢族由来の宗教用語であり,神祗と略される。『日本書紀』に描かれた皇祖像は祭事に関しては神祗官に委ね,現世を統治する政は太政官に委ねるものであった。『記紀』に描かれた天皇による神祗の職務を端的に言えば,この国の天神地祗への祈りの総括者であり,それは道教の教義に則ったものであった。文武天皇以降における詔冒頭「現あきつみかみとおおやしまのくにしろしめすすめらみこと御神止大八島國所知天皇」(明あきつみかみと神止大おおやしま八州所しろしめす知倭やまとねこ根子)は,従来の神道学では誤解され,天皇が現御神(明御神)であるとするものが多い。しかし現御神とは生ける天皇自身への尊称ではなく,祭事を行う時において,神々への祈りの総括者という立場を示すものである。すなわち,『続日本紀』宣命の冒頭の意味は,「現世に現れた八百万の神々と日本全土を統しろしめる治する倭やまと出身の天すめらみこと皇」という意味になる。『日本書紀』神代紀には現御神を示す語はほとんどなく,現御神なる修飾語は後世の脚色である5。しかし,明治維新における天皇親政というスローガンが意味するものは,現世の政さえも天皇は委任せず,自ら親政を行うという,神武紀神話への回帰が前提とされ,しかも近代立憲制のもとで,行政機構が親政を包摂するという無謀なスローガンであった。その点で,明治維新の前提である天皇親政と立憲主義とは,相矛盾する政体を前提としていた。天皇親政の幻想は『日本書紀』神武紀における神武天皇神話に由来する。『記紀』を学ぶ国学徒であった,尊王攘夷運動を推進した勢力にとって,神代の天