105号

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52 高知論叢 第105号状態において,治療を中止すべく被害者の意思を推定するに足りる家族の強い意思表示を受けて,被害者に自然の死を迎えさせるために治療行為の中止としてなされたものであり,実質的違法性ないし....

52 高知論叢 第105号状態において,治療を中止すべく被害者の意思を推定するに足りる家族の強い意思表示を受けて,被害者に自然の死を迎えさせるために治療行為の中止としてなされたものであり,実質的違法性ないし可罰的違法性がないとの被告人側主張に対し,末期医療における治療中止について,以下の判断を示した。「末期医療において患者の死に直結しうる治療中止の許容性について検討してみると,このような治療中止は,患者の自己決定権の尊重と医学的判断に基づく治療義務の限界を根拠として認められるものと考えられる。」「……末期,とりわけその終末期における患者の自己決定の尊重は,自殺や死ぬ権利を認めるというものではなく,あくまでも人間の尊厳,幸福追求権の発露として,各人が人間存在としての自己の生き方,生き様を自分で決め,それを実行していくことを貫徹し,全うする結果,最後の生き方,すなわち死の迎え方を自分で決めることができるということのいわば反射的なものとして位置付けられるべきである。」「その自己決定には,回復の見込みがなく死が目前に迫っていること,それを患者が正確に理解し判断能力を保持しているということが,その不可欠の前提となるというべきである。」「もっとも,末期医療における治療中止においては,その決定時に,……患者本人の任意な自己決定及びその意思の表明や真意の直接の確認ができない場合も少なくないと思われる。」「患者本人の自己決定の趣旨に,より沿う方向性を追求するため,その真意の探求を行う方が望ましいと思われる。その真意の探求に当たっては,本人の事前の意思が記録化されているもの(リビング・ウイル等)や同居している家族等,患者の生き方・考え方等を良く知る者による患者の意思の推測等もその確認の有力な手がかりになると思われる。そして,その探求にもかかわらず真意が不明であれば,『疑わしきは生命の利益に』医師は患者の生命保護を優先させ,医学的に最も適応した諸措置を継続すべきである。」「治療義務の限界については,……,医師が可能な限りの適切な治療を尽くし医学的に有効な治療が限界に達している状況に至れば,患者が望んでいる場合であっても,それが医学的にみて有害あるいは意味がないと判断される治療については,医師においてその治療を続ける義務,あるいは,それを行う義務は法的にはないというべきであり,この場合にもその限度で治療の中止が許容