105号

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56 高知論叢 第105号と当審では判断を異にするような一種微妙な証拠判断にかかるものであって,家族の明確な意思表示があったとまでは認められないから,適法とはされない。次に,治療義務の限界によるアプローチか....

56 高知論叢 第105号と当審では判断を異にするような一種微妙な証拠判断にかかるものであって,家族の明確な意思表示があったとまでは認められないから,適法とはされない。次に,治療義務の限界によるアプローチから,X の余命についてどうみるかであるが,Y 鑑定は,脳波や画像といった余命を推定するために必要な臨床的情報が揃っておらず,発症から未だ2 週間の時点であることからも幅をもたせた推定しかできないと指摘した上で,W(医師……評者注)鑑定によっても,16日の時点で,X が約1 週間後に死に至るのは不可避であったとはいえず,同人の死期が切迫していたとは認められない。Y 鑑定もW 鑑定も,16日以降の治療が医学的におよそ意味がないとは述べていないのであって,治療義務が限界に達していたと認めることはできない。以上の検討から,被告人に殺人罪の成立を認めた原判決は結論において正当であり,事実誤認との被告人側主張は理由がないとの判断を示した。しかしながら,被告人は,X の予後についての検査をしておらず,家族に対する説明も万全とはいい難いが,家族に対する説明に配慮を欠いていたとは到底いえない。そして,原原審の量刑判断における評価とは異なり,被告人は家族の真意を確認せずに独断で抜管を押し進めたわけでもないし,苦悶様呼吸が出現した時点で再挿管の意向を家族に確認せよというのは無理な注文といえるとし,被告人は看護婦に箝口令を敷くなどの罪証隠滅工作をしておらず,カルテの記載は罪証隠滅のための虚偽記載というよりも,被告人の後悔の現れとみるべきであろうとする。本件抜管が家族からの要請であることは否定できないのであって,家族の要請がなかったことをする原判決の量刑判断は,維持し難いとして,職権により量刑不当として原判決を破棄した上で,当審において適正な量刑判断を行うとした。「被告人が,家族からの要請があったと理解しても,なおその意向を再確認し,さらに他の医師にも相談すべきであって,独断で本件抜管を決断したことは,結果的に患者を軽視したといわれても致し方ないというべきである」としつつも,他方で,「被告人は,治療中止について医療に従事する者が従うべき法的規範も医療倫理も確立されていない状況の下で,家族からの抜管の要請に対して決断を迫られたのであって,その決断を事後的に非難するというのは酷