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川崎協同病院事件最高裁決定593.評 釈(1)終末期医療に関する刑法学説と判例本件は,終末期医療のあり方が問題とされた事案であるが,刑法学においては,終末期医療の問題としては,いわゆる安楽死が,従前より....

川崎協同病院事件最高裁決定593.評 釈(1)終末期医療に関する刑法学説と判例本件は,終末期医療のあり方が問題とされた事案であるが,刑法学においては,終末期医療の問題としては,いわゆる安楽死が,従前より論じられてきた。刑法学上,安楽死は,「死期が差し迫っている患者の耐えがたい肉体的苦痛を緩和・除去して安らかに死を迎えさせる措置」11と定義され,4 つの類型に分けて論じられるのが一般的である。すなわち,(1)生命短縮を伴わずに苦痛を緩和・除去する場合(純粋安楽死),(2)死苦緩和のための麻酔薬の使用等の副作用により死期をいくらか早めた場合(間接的安楽死,治療型安楽死,狭義の安楽死),(3)生命の延長の積極的措置をとらないことが死期をいくらか早めた場合(消極的安楽死,不作為による安楽死),(4)生命を断つことにより死苦を免れさせる場合(積極的安楽死)である12。(1)(2)の類型については,適法と解する見解が多数説である13。(3)は近年,尊厳死を含む概念であることが意識されるようになり,新たな問題となっている。(4)の積極的安楽死については,従来から見解が分かれてきた。通説は,積極的安楽死についても,違法性が阻却される場合があるとする。従前は,例えば「人間的同情,惻隠の行為」14 や「科学的合理主義に裏づけられた人道主義」15が,その論拠とされていたが,その後,「自己決定権」の視点からアプローチする見解が,有力化した。例えば,通常の緊急避難と違い「安楽死の場合は,一人の利益主体しか存在しない。そして,安楽死の問題は彼一人に関することである。第三者が(『苦痛のある生命』と『苦痛のない短い生命』とを……評者注)客観的に『利益衡量』して本人のために結論を出して良いも11 内藤謙『刑法講義総論(中)』(有斐閣,1986年)534頁等。12 内田博文「安楽死」『別冊ジュリスト 刑法判例百選Ⅰ総論(第三版)』46頁等。13 (2)の類型については,後出のⅱ判決が,傍論で,治療行為性と患者の自己決定権(推定的意思を含む)を根拠に許容されるとの判断を示している。14 小野清一郎「安楽死の問題」(1950年)『刑罰の本質について・その他』(有斐閣・1955年)211頁。15 植松正「安楽術の許容限界をめぐって」『ジュリスト』269号(1963年)45頁。