105号

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60 高知論叢 第105号のではなく,『病者の自己決定』こそが安楽死の本質的要素で,この論理は積極的安楽死だけでなく間接的安楽死にもあてはまる」16 や「人権論は……最も基本的な権利である生命権の具体的内容の....

60 高知論叢 第105号のではなく,『病者の自己決定』こそが安楽死の本質的要素で,この論理は積極的安楽死だけでなく間接的安楽死にもあてはまる」16 や「人権論は……最も基本的な権利である生命権の具体的内容の一つとして生命・身体に関する自己決定権を承認する。……人権論としての安楽死肯定論は,自立的生存(自己決定をなし得る主体)の可能性がなくなったときには,死の意思の真実性を担保する客観的な条件を考慮して本人の自己の生命に対する処分権を許容するものである。……本人の意思を実現する行為としての積極的安楽死は正当行為だということになる」17といった見解がそれである。他方,積極的安楽死につき,違法性は阻却されず,なお違法であるとの主張もなされてきた18。更に,期待可能性論を基軸とした責任阻却事由と解する見解19も唱えられている。たとえ本人の自己決定に基づくものであっても,それが「生存の価値なき生命の毀滅」に連なるおそれが残るため,違法性は阻却されず,期待可能性の有無の観点から不処罰の可能性を検討するものである。古くから論じられてきた安楽死に対し,尊厳死(あるいは「治療行為の中止」)の問題は,人工呼吸器等の生命維持治療の発達によってもたらされた,比較的新しい問題として捉えられている20。尊厳死は,安楽死よりも微妙で解決に困難な問題を含んでいるともいわれている21が,一定の要件のもとに,許容されるとする見解も多くみられる。また,現行法の解釈では限界があるとの指摘も存在する22。本件以前の判例を見てみると,積極的安楽死が問題とされた事案で,具体的16 町野朔「安楽死 ひとつの視点 (2)」『ジュリスト』631号(1977年)121頁。17 福田雅章「安楽死」莇立明=中井美雄編『医療過誤法入門』(青林書院,1979年)251頁以下。18 木村亀二『刑法総論』(有斐閣,1959年)290頁以下等。19 佐伯千仭『四訂 刑法講義(総論)(オンデマンド版)』(有斐閣,2007年)291頁,内藤・前掲注(11)539頁以下等。なお,中山研一『口述刑法総論』(成文堂,1978年)205頁は,「可罰的違法性がなく,または期待可能性がないために責任が阻却されるという理由で不可罰とされることがある」としている。20 内藤・前掲注(11)544頁等。21 内藤・前掲注(11)544頁。22 井上宜裕「医師による気管内チューブ抜管行為が法律上許容される治療中止には当たらないとされた事例」『法学セミナー増刊 速報判例解説』7 号(2010年)186頁。