105号

105号 page 63/76

電子ブックを開く

このページは 105号 の電子ブックに掲載されている63ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
川崎協同病院事件最高裁決定61な要件を示したものとしては,ⅰ名古屋高裁昭和37年12月12日判決23とⅱ横浜地裁平成7 年3 月28日判決(東海大安楽死横浜地裁判決)24を挙げることができる。ⅰにおいて,名古屋高裁は,....

川崎協同病院事件最高裁決定61な要件を示したものとしては,ⅰ名古屋高裁昭和37年12月12日判決23とⅱ横浜地裁平成7 年3 月28日判決(東海大安楽死横浜地裁判決)24を挙げることができる。ⅰにおいて,名古屋高裁は,傍論で,安楽死が違法性を阻却する要件として,次の6 要件を挙げた。(1)病者が現代医学の知識と技術からみて不治の病に冒され,しかもその死が目前に迫っていること,(2)病者の苦痛が甚しく,何人も真にこれを見るに忍びない程度のものなること,(3)もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと,(4)病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には,本人の真摯な嘱託又は承諾のあること,(5)医師の手によることを本則とし,これにより得ない場合には医師によりえないと首肯するに足る特別な事情があること,(6)その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものなること。しかしながら,当該案件では(5)(6)の要件を欠くとして,嘱託殺人罪の成立を認めた。学説からは,(5)(6)の要件を挙げる以上,実質的には違法性阻却を否定しているに近いとの評価がなされていた25。医師が,依頼されて積極的安楽死にあたる手段をとることはまずないと考えられていたからである26。しかしその後,ⅱにおいて,患者に薬物を注射したことにより同人を死亡させたとして,医師が殺人罪に問われることとなったが,横浜地裁は,傍論で,ⅰ判決で示された6 要件とは別の,医師による安楽死が許容される一般的要件として,次の4 要件を新たに示した。(1)耐えがたい肉体的苦痛があること,(2)死が避けられずその死期が迫っていること,(3)肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと,(4)生命の短縮を承諾する明示の意思表示があること。また,ⅱ判決はさらに踏み込んで,薬物の注射に至るまでに被告人が行ったとされる,当該事案では起訴されていない行為である治療行為の中止が許容される要件をも示した。すなわち,(1)許容される治療行為の中止の対象となる患者について,死の不可避性を要求し,単に治癒不可能23 高刑集15巻9 号674頁以下。24 判時1530号28頁以下,判タ877号148頁以下。25 内藤・前掲注(11)542頁等。26 内藤・前掲注(11)542頁,町野朔「『東海大学安楽死判決』覚書」『ジュリスト』1072号107頁等。