105号

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62 高知論叢 第105号であるだけでは足りないことを示し,(2)患者の自己決定権の理論と(3)医師の治療義務の限界論を正当化の根拠とするものである。その上で,当該事案につき,許容される「治療行為の中止」及び....

62 高知論叢 第105号であるだけでは足りないことを示し,(2)患者の自己決定権の理論と(3)医師の治療義務の限界論を正当化の根拠とするものである。その上で,当該事案につき,許容される「治療行為の中止」及び「積極的安楽死」に当たらないとして,殺人罪の成立を認めた。(2)治療行為の中止の要件本件原原審横浜地裁は,本件抜管行為が,治療不可能で回復の見込みがなく死が不可避な末期状態において,治療を中止すべく被害者の意思を推定するに足りる家族の強い意思表示を受けて,被害者に自然の死を迎えさせるために治療行為の中止としてなされたものであり,実質的違法性ないし可罰的違法性がないとの被告人側主張について,末期医療における治療中止の許容性の要件として,「患者の自己決定権の尊重」と「医学的判断に基づく治療義務の限界」を挙げた。その上で,本件は,(1)「回復不可能で死期が切迫している場合」にはあたらず,(2)被告人は,家族らに対し,患者本人の意思について確認していないのみならず,患者の病状や本件抜管の意味の説明すら説明していない。精神的に相当不安定となり医学的知識もない妻らに,9 割9 分植物状態になる, 9 割9 分9 厘脳死状態などという不正確で,家族らの理解能力,精神状態等への配慮を欠いた不十分かつ不適切な説明しかしておらず,結局,本件抜管の意味さえ正確に伝わっていなかった。被告人が,家族らが治療中止を了解しているものと誤信していたことも,説明が不十分であること,患者本人の真意の追求を尽くしていないことの顕れであり,前記要件を満たしていないとして,「患者の自己決定権の尊重」の要件を満たさず,(3)被告人の本件抜管行為は,「治療義務の限界」を論じるほど治療を尽くしていない時点でなされたもので,早すぎる治療中止として非難を免れないとして,被告人側の主張を退けた。(3)「患者の自己決定権論」と「医師の治療義務の限界論」かつて前述した東海大安楽死事件横浜地裁判決によって「治療行為の中止」が許容される要件が示されていたが,本件原原審たる横浜地裁判決は,東海大