105号

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川崎協同病院事件最高裁決定63安楽死横浜地裁判決とは異なった構造をもつことが指摘されている27。すなわち,東海大安楽死事件横浜地裁判決は,「患者の自己決定権論」と「医師の治療義務の限界論」を並列させている....

川崎協同病院事件最高裁決定63安楽死横浜地裁判決とは異なった構造をもつことが指摘されている27。すなわち,東海大安楽死事件横浜地裁判決は,「患者の自己決定権論」と「医師の治療義務の限界論」を並列させているが,それに対して,本件横浜地裁判決は,それぞれが単独で治療中止の根拠となりうるとしている点である28。本件控訴審判決は,原原審が挙げた「患者の自己決定権論」と「医師の治療義務の限界論」のいずれのアプローチにも解釈上の限界があり,尊厳死の問題を抜本的に解決するには,尊厳死法の制定ないしこれに代わり得るガイドラインの策定が必要であるとしながら,他方,国家機関としての裁判所が当該治療中止が殺人に当たると認める以上は,その合理的な理由を示さなければならないことから,具体的な事案の解決に必要な範囲で要件を仮定して検討することも許されるべきであり,仮定する前記二つのいずれのアプローチによっても適法とはなし得ないとして,原原審の殺人罪成立との判断を維持した。このような,控訴審の判断方法に対しては,「裁判所がこの2 つの『アプローチ』は解釈上無理であると考えるなら,別の解釈を探さなければならないだろう。法を解釈することは裁判所の職務である。それをしないのは,そんなことは最初から無理なので,現行法の解釈ではX の行為は違法であることが疑いないという結論を前提にしているからにほかならない。しかし,もしそうなら,わざわざ2 つのアプローチを試してみる必要などまったくない」29といった強い批判もなされている。また,このような2 つのアプローチを並列させる考え方について,これらは「終末期医療の実行・忌避が患者の最善の利益に合致するかを判断するための2 つの要素であり,両者は対立するものではない。また,これらは併せて用いるべき2 つのツールなのであ(る)」30との批判もなされている27 町野朔「患者の自己決定権と医師の治療義務 川崎協同病院事件控訴審判決を契機として 」『刑事法ジャーナル』8 号(2007年)49頁以下。28 町野・前掲注(27)は,本件横浜地裁判決は「佐伯教授の見解に従ったもの」と指摘する。佐伯仁志「末期医療と患者の意思・家族の意思」樋口範雄編著『ジュリスト増刊 ケース・スタディ生命倫理と法〔第2 版〕』(2012年)70頁は,「判旨は,両者の関係について明確ではないが,……どちらも単独で治療の中止の根拠となりうると考えるべきであろう」としている。29 町野・前掲注(27)50頁。30 町野・前掲注(27)52頁。