105号

105号 page 67/76

電子ブックを開く

このページは 105号 の電子ブックに掲載されている67ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
川崎協同病院事件最高裁決定65(4)元被告人の裁判所に対する批判点本件被告人は,その著書の中で,控訴審判決を以下のように批判する。「ミオブロックの投与がいけなかったというだけならまだいいのです。以後こう....

川崎協同病院事件最高裁決定65(4)元被告人の裁判所に対する批判点本件被告人は,その著書の中で,控訴審判決を以下のように批判する。「ミオブロックの投与がいけなかったというだけならまだいいのです。以後こういう場合に,この薬は使わないようにすればすむので,医療現場でとくに困ることはないでしょう。ところが,『抜管行為と併せて全体として治療中止行為の違法性』が問われ,それが『殺人罪を構成する』となると,話は全くちがってきます。延命治療の中止が『殺人罪を構成する』可能性があるとなれば,現場の医療者たちに重苦しいプレッシャーがのしかかります。」32「自己決定権と治療義務の限界説という2 つのアプローチに,堂々めぐりともいえる否定的な見解をちらつかせておいて,『いずれにおいても適法とすることができなければ,殺人罪の成立を認めざるを得ないことになる』というのですから,これでは極端な話,延命治療を中止した場合は片っ端から殺人罪の疑いで捜査されても文句は言えないということになります。」33「この判決文のいうところは,延命治療を中止する際に医師が判断したことを,あとから殺人罪として評価しなおすという『後出し』を可能にすることにほかなりません。」34「司法が踏み込む必要のない場所に乗りこんできて,殺人罪というモノサシを振りかざして医療者を追い回すことに,何の意味があるというのでしょう。」35「判決はまた,A さん(本稿表記ではX……評者注)の余命判断や回復可能性について,私が脳波検査もしていないと批判します。これもまた脳波検査をしておけばよかったのか,といってみても仕方がありません。脳波検査で余命判断や回復可能性が正確にわかるのかといえば,そんなことは死の直前までわからないのです。後出し論法でいけば,脳波検査を行っていればいたで『脳波検査だけでは十分とはいい難い』ということになるでしょう。どこまでいってもきりがありません。司法が,このケースは殺人罪にしようと意図すれば,必ずそうできてしまうのです。」36さらに,最高裁決定については,「最高裁は延命治療の中止の適法基32 須田セツ子『私がしたことは殺人ですか?』(青志社,2010年)171頁。33 須田・前掲注(32)184頁。34 須田・前掲注(32)185頁。35 須田・前掲注(32)185頁。36 須田・前掲注(32)189頁。