105号

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66 高知論叢 第105号準を示すことなく,ただ東京高裁の判断を追認しました。もうこれで後出しの刑事訴追に歯止めはかかりません。」37本件の各裁判所が採用し,学説も支持しているとされる治療行為の中止の正当化要....

66 高知論叢 第105号準を示すことなく,ただ東京高裁の判断を追認しました。もうこれで後出しの刑事訴追に歯止めはかかりません。」37本件の各裁判所が採用し,学説も支持しているとされる治療行為の中止の正当化要件である「回復不可能性及び死期の切迫」「患者本人の真意の追求が尽くされていること」「治療義務の限界に達していること」は,被告人には,実態にそぐわないものとして映ったであろうか。特に,東京高裁の言い回しは,現実の事件において実在している被告人に対して,当該正当化要件に対して「堂々めぐりともいえる否定的な見解」を示しながら,その要件を用いて殺人罪の成立を認めたという意味で,被告人にとっては受け入れ難いものだったのかも知れない。被告人がこのような割り切れない思いを抱えるのは,実際の医療の現場において,被告人の行為が,やはり突出したものであって,刑事責任を問わざるを得ないとは,被告人自身が思えないことがあるのではないだろうか。事件発生当時の医療「準則」や医療実態から,本当に,被告人の行為が殺人罪の刑事責任に問われるものなのであったのか。このような観点から判例を検討すると,なるほど,「脳波検査さえやっていない」と被告人を論難してはいるが,当時の医療「準則」として,専門家たる医師である被告人は,どのような検査を行ってしかるべきであったかという観点からの判断は見られない。これだと,「後出し」として,司法への不信が募ることにも理由があるように思われなくもない。(5)殺人罪の成否における「医療水準」ないし「医療倫理」このような観点からみれば,尊厳死法38やガイドライン39の必要性を指摘し37 須田・前掲注(32)197頁。38 2012年,「尊厳死法制化を考える議員連盟」により,いわゆる「尊厳死法案」の国会上程が企図されている。いわゆる「尊厳死法案」を考察するものとして,「特集=尊厳死は誰のものか 終末期医療のリアル」『現代思想』(青土社,2012年)等。39 本件控訴審判決が出た後の2007年5 月,厚生労働省は「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定した。樋口範雄『続・医療と法を考える 終末期医療ガイドライン』(有斐閣,2008年)87頁以下は,本ガイドラインは「終末期医療の決定のためのプロセスを明確化するだけであり,終末期を迎えた患者を皆で支える体制作りをする