105号

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川崎協同病院事件最高裁決定67た裁判所に対して,被告人は「これ(厚生労働省が策定した2007年5 月『終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン』……評者注)は国が策定したガイドラインですが,かりにこの決定....

川崎協同病院事件最高裁決定67た裁判所に対して,被告人は「これ(厚生労働省が策定した2007年5 月『終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン』……評者注)は国が策定したガイドラインですが,かりにこの決定のプロセスの手順を踏んで,終末期医療の一環として延命治療の中止を行ったとしても,事後に刑事訴追をまぬかれるわけではありません。」40として批判をするが,しかし,これらのガイドラインが時の「医療水準」ないし「医療倫理」を満たすものであれば,それは医療者として守るべきものとはならないか。もちろん,「処罰される行為」と「やってはならない行為」は別物であり,ガイドラインに違反した治療の中止が直ちに殺人罪になるわけではない41が,反対に,ガイドラインにそった行為であるならば,不処罰化の方向で考えるべきともいえよう。ガイドラインは,医師の免責の道具と堕してはならず,専門家に当然要求されるべき水準を満足させるものでなければならない。だからこそ,国家の刑事介入を拒むこともできるのである。とすると,被告人の「グループ・カンファランスとなれば,さらに延命治療はつづくでしょう。」42「公の場では万が一の可能性にかける『正論』に反対できる人はいないのです。また多人数で決めたことには誰も責任をもたないし,複数主治医というのも,遠慮を含めて本音をいわないことが多いものです。」4「3 かつて,私たちが医者になったころは,患者さんに接するときは自分の家族のように,一番よいと思われる治療をほどこすように教わりました。いまでは,つねに患者さんと距離をおくように指導されているのでしょうか。患者さんやその家族から,訴えられることがないように,少しでもリスクのあるための指針」であるが,これには①医師の刑事免責の実体的要件が明らかにされていない,②患者にとって不本意な安楽死への道を開くことになるのではないかという懸念,という2 つの批判が寄せられたことを指摘する。40 須田・前掲注(32)202頁。41 町野・前掲注(27)51頁。しかし,医療者に対するガイドラインについては,一定限度の許容を当然の前提とするものであり,つねに事実上の拡大傾向を促進する危険性が孕まれているとの危惧を唱える見解もある。辰井(2006年)・前掲注(31)167頁参照。なお,原原審における要件の認定に際して,「疑わしきは生命の利益に」判断すべきとの考え方に対しては,「疑わしきは被告人の利益に」との抵触を懸念する見解もある。橋爪・前掲注(31)170頁,井上・前掲注(22)185頁以下参照。42 須田・前掲注(32)212頁。43 須田・前掲注(32)212頁。