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武官の人事評価に関する歴史的研究53した人事案を陸海軍大臣が進級会議で報告して決定され,上奏,裁可される。その事を以て官僚による専横とは言えず,人事の大権は最高決定者である天皇にあり,親裁が貫かれていた....

武官の人事評価に関する歴史的研究53した人事案を陸海軍大臣が進級会議で報告して決定され,上奏,裁可される。その事を以て官僚による専横とは言えず,人事の大権は最高決定者である天皇にあり,親裁が貫かれていたことは言うまでもない。軍官僚による人事の濫用が行われることはシステム上あり得ないことであった。一方で,親任官,将官や側近の人事に関しては,統帥者である主上(天皇)の意向が重視された。後述するように,天皇の意向は侍従武官人事に関しては特に重要であった。主要大臣,大将,司令長官などの親任官人事に関しては天皇の意向が重視されたことは,額田坦をはじめ多くの人物が語っており,天皇自身も『独白録』において語っている。将官の任官,進級,転職,退職,予備役編入はすべて上奏,裁可を経るのが原則であり,天皇大権に属する。後年,元陸軍人事局長額田坦は,佐官,尉官など奏任官は便宜上大臣への委任事項となっていたと述べているが,数万名に及ぶ人事をすべて個別に天皇が裁可する訳ではない。しかし,あくまで便宜上大臣に委任するように見えるだけである。人事における親裁は儀礼的,形式的なものではなく,実質的に親裁が行なわれていた。採用,進級人事に関して,本省人事部局中枢にいた額田坦は以下のように述べている。「進級および将官の人事についてはあらかじめ大臣からいちいち内奏し,ご内意を伺った上でさらに書類をもって上奏し御裁可を得ることとなっていた…かつて明治天皇は殊の外軍事にご熱心で特に関心が深く,伝えられるところによれば,おおむね在京の陸軍少佐以上の人事をご承知であったと承る…明治天皇は,大臣の将官人事内奏にあたり,しばしば詳細なご下問やご意見があり,さらに書類上奏にあたっても,お気に召さぬ箇所があると何日間でも上奏書類をお机の中に放置されていたと伝えられる」73 これには省部協定があり,将官の人事は3長官の協議決定によると額田は述べている。さらに額田坦は以下のように述懐している。大将人事上奏にあたって,大臣の管掌事項であるが,現実は,奇数の3長官(陸軍省,参謀本部,教育総監部)の合議が慣73 前掲『額田坦回想録』41頁,将官人事を上奏する前に,三長官会議を行うことが上奏のための人事案決定の際,慣例となっていたことは『奈良武次侍従日記』にも記されている。