高知論叢107号

高知論叢107号 page 105/180

電子ブックを開く

このページは 高知論叢107号 の電子ブックに掲載されている105ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究70日米開戦にあたって天皇の役割は、それまでの天皇が担った役割と同様に、大元帥としての役割と祭祀者の役割が求められた。昭和十六年九月六日の御前会議における....

日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究70日米開戦にあたって天皇の役割は、それまでの天皇が担った役割と同様に、大元帥としての役割と祭祀者の役割が求められた。昭和十六年九月六日の御前会議における天皇の発言は神(天)の声として高官によって考えだされたものであった。また、大元帥としての昭和天皇は、統帥部から提出された帷幄上奏によって作戦や開戦を裁可した。昭和十六年九月六日御前会議における天皇の発言とされた事は、木戸幸一が発案し、参謀本部第二〇班が記録を残し、近衛文麿らが流布した架空の物語であったと筆者は考えている。本稿の目的は、当事者しか知りえず、かつ天皇も肯定している発言の真偽を解明することだけにあるのではない。本稿で引用した書誌的な検討は、あくまで状況証拠の積み重ねにすぎない。筆者の目的は、その物語を作り受け継いだ忠臣達による努力の痕跡を辿り、かつ、その物語が真実か否かの疑問さえ抱かないその後の国民精神、明らかな作為があるにも拘わらずそれを問題視しなかった当時のアメリカ占領軍など、「国体」を守るべく対処してきた実相を明らかにする事にあった。いうまとめを行った。しかも、九月六日御前会議当日の私的記録である「田中新一中将業務日誌」には、御前会議の最後に天皇が発言したという記述は全くない。異例の発言がもしあったなら、個人的な非公式の日誌であるだけに田中新一は必ずそのまま書き留めるはずである。その意味で「田中新一中将業務日誌」は、最も信頼できる御前会議記録の一つと見なすことができる。結本稿は開戦前御前会議と帷幄上奏に関する記録を書誌的に検討した。明治以来の天皇に代表される朝廷は、天神地祇と対話する、国民国家の象徴であるともに、憲法に基づいて統治権を総攬して、陸海軍の統帥権を掌握するという存在であった。このような立場は、普通の人間は達し得ず、それを可能にしたものは優秀な文武官と、よく整備された官僚組織であった。