高知論叢107号

高知論叢107号 page 119/180

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日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究56「近衛文麿手記」昭和十六年九月六日付には以下のように記されている。「昭和十六年九月六日 午前一〇時御前会議 原枢相、本案ヲ見ルニ外交ヨリ戦争ニ重点ヲ置カ....

日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究56「近衛文麿手記」昭和十六年九月六日付には以下のように記されている。「昭和十六年九月六日 午前一〇時御前会議 原枢相、本案ヲ見ルニ外交ヨリ戦争ニ重点ヲ置カルゝ感アリトテ、政府統帥部ノ趣旨ヲ質ス、政府ヲ代表シテ海相答ヘ統帥部ヨリハ答弁ナシ 陛下突如此時御発言、統帥部ノ答弁ナキヲ遺憾トセラレ、明治天皇御製ヲ御朗読平和愛好ノ大御心ヲ仰セラル 満座粛然暫クハ一言ヲ発スルモノナシ、身座テ永野総長御咎メヲ恐懼シ、外交ヲ主トスル趣旨ヲ陳述シ未曾有ノ緊張裡ニ散会ス」四九以上は本人の筆ではなく、戦後近衛が秘書に口述筆記させた日誌であり、縦書き罫線が入った、日本標準規格用紙で書かれている。いずれも防衛省戦史資料室の近衛史料五分冊の四,五巻に収められている。「近衛文麿公手記」の当該部分(昭和一六年四月八日から一〇月一六日)は原稿用紙下段に、コクヨ 一七五 十行廿字詰 とある。JIS規格は昭和二四(一九四九)年に制定されたものであり、それ以前はJESであった。当該メモが清書された用紙は日本標準規格(JES・一九二一-四一)用紙ではなく、臨時日本標準規格(臨J ES・一九三九-四五)の用紙であろう。B四原稿用紙に記されたものをA四版の日記に縮小して合冊されている。以上に示した「近衛文麿手記」に収められた原稿用紙の部分は、「近衛文麿公手記」として戦後出版するに際して口述筆記されたものであろう。どのような経緯によって「近衛文麿手記」の他の日誌メモと結合されたかは不明であるが、陸軍参謀本部は臨時日本標準規格の用紙を使用しており、参謀本部によって清書された(捏造された)可能性が高い。いずれにしても、当該箇所は近衛以外の者が、後年に清書して日誌メモに挿入したものである。これが従来、九月六日の御前会議における天皇発言の一次史料とみなされ、しばしば引用されてきたが、従来その真偽に疑いを持たれる事はなかった。開戦前に首相を退任して以降、近衛文麿は暫く天皇に面会しなかった。昭和二〇年二月一四日、近衛文麿は三年半ぶりに天皇に拝謁した。これより先、天皇は重臣に以下のように御下問した。「日本が和を乞えば米国は天皇制廃止を要求してくる「国体」は危ない 和を乞うても「国体」は危ない 戦っていけば萬一の活路が見いだされるというが どうか」という御下問に対し