高知論叢107号

高知論叢107号 page 147/180

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日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究28して改装したとされている。「上奏時御下問奉答綴」は、いくつかの文書を継ぎ合わせた書類である。「上奏時御下問綴」という文書の表題は後日「上奏時御下問奉答....

日米開戦前の御前会議と帷幄上奏に関する書誌的研究28して改装したとされている。「上奏時御下問奉答綴」は、いくつかの文書を継ぎ合わせた書類である。「上奏時御下問綴」という文書の表題は後日「上奏時御下問奉答綴」と訂正されている。同書類は参謀本部第二〇班の班記録文書であり、後日「杉山メモ」の一部として防衛庁戦史資料室によって公開された。同資料は決して上奏時のメモだけで構成されているわけではない。従来、すべて上奏時における御下問を記録した一次資料として取り扱われてきた。ところが同「上奏時御下問奉答綴」は、上奏時のメモに基づき爾後に作成されたものであり、当日の会議を正確に残したものばかりでない。「上奏時御下問綴」の中で、特に注目される記録は昭和十六年九月六日御前会議前後の記録である。「機密戦争日誌」には以下の記述がある。「一.午前十時ヨリ十二時ニ至ル間御前会議決定ス 会議ノ模様ニ関シテハ別冊(『杉山メモ』上参照)ニ依ル 正ニ歴史的御前会議ニシテ幾多ノ秘史アルガ如キモ茲ニ記載セズ 対米決意ハ前途遼遠ナルヲ思ハシムルモノアリ 二.今日ノ御前会議ハ特ニ「決ツタ」ト云フ感ジ湧キ来ラズ 如何ナル意カ?」二六と記されている。『杉山メモ』(「上奏時御下問奉答綴」)では当該箇所を数多の「秘史」の一つとして扱ったのか敢えて掲載しなかった。しかし、当該箇所は、対米開戦を決定した帷幄上奏の最も重要な部分であり、九月六日の御前会議席上における天皇の発言は、誰しも疑わない通説になっている。「上奏時御下問奉答綴」が記された昭和一六年当時の班長は有末次(在任期間は昭和一五年一〇月一〇日~昭和一七年一月二一日)、班員は種村佐孝、武田功(兼務)、原四郎、そして秩父宮(昭和一三年一月~昭和一六年三月)であった。種村は有末の前任の班長であり、班員に格下げとなった異例の人事であった。元班長や兼務の者、秩父宮が書記の実務を行う事は考えられないので、実際に記録を行った人物は原四郎であろう。原四郎は瀬島隆三と陸士四十四期の同期であり、瀬島も第二〇班における原四郎の活動について戦後一文を書いた二七。「上奏時御下問奉答綴」は以下の三つの部分から構成されている。第一に、上奏時において原四郎が忠実にペン書きで記録