高知論叢107号

高知論叢107号 page 60/180

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58 高知論叢 第107号浮魚類の採捕は,共同漁業権の権利内容に含まれない。一本釣り,はえ縄等のように漁業権の対象とならない水産動植物を特定の器具類を用いて採捕する漁業は自由漁業と呼ばれる。また,底びき,底....

58 高知論叢 第107号浮魚類の採捕は,共同漁業権の権利内容に含まれない。一本釣り,はえ縄等のように漁業権の対象とならない水産動植物を特定の器具類を用いて採捕する漁業は自由漁業と呼ばれる。また,底びき,底びき網のように船舶あるいは特定の漁具や照明器具等を使用して漁業を営む場合は,都道府県知事の許可を受けなければならない。これを許可漁業といい,操業区域・期間・魚種等の制限付きで営むことができる1。わが国のかつてのほとんどの海岸線は,漁業権,とくに共同漁業権が設定されていた。ところが,70年代以降公有水面埋立のような沿岸海域における大規模公共事業の進展に伴い,共同漁業権等の漁業権の放棄や漁業協同組合へなされる漁業補償金の帰属・配分方法やその基準をめぐって,各地で主に漁民と組合間でトラブルが生じ,それらに関する裁判例が集積するという法状況になった。この種の裁判においては,紛争解決の前提の法解釈論として共同漁業権の法的性質をめぐって当事者の見解が対立し,各地の裁判所も異なった見解(総有説と社員権説)に立脚してそれぞれ判決を出していたが,社員権説を採用した最判平元・7・13民集43巻7 号866頁においてひとまず司法上の対立は終息を迎えた。しかしながら,最高裁判決以降においても,われわれが支持する総有説を根拠づける現実,すなわち海面の入会的利用の実態は存続しているとみられる。そこで法的性質論に関する議論を,いま一度検討の対象に据えることとしたい。そこで本稿では,まず,共同漁業権の法的性質が主要な争点になった最高裁判例及び下級審裁判例について,2で三つの主要論点につき検討を加える。ここで得られた総有説の解釈論的意義をふまえて,3では漁業法を中心とした実定法規に即しつつ総有説の理論的整理を行う。ここではさらに近時のコモンズ論を援用しつつ「共同漁業権の有する入会権的性質」が有する諸機能,特に沿岸海域における「共」的な資源管理に関する秩序形成機能を抽出する。最後に4で今後の研究に向け残された検討課題について触れる。なお本稿は共同執筆1 漁業権制度の概要については,中尾英俊「漁業権」川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7)物権(2)』(有斐閣,2007)577頁以下(以下,前掲論文①とする)等参照のほか,後述3-1. もあわせて参照されたい。