高知論叢107号

高知論叢107号 page 63/180

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共同漁業権論争の現在的地平61た訴訟がほとんどであるが,2 つの説が関係してくる主な論点は,①公有水面埋立等のための共同漁業権の放棄はいかなる手続によるべきか(以下「論点①」とする),及び②共同漁業権の放....

共同漁業権論争の現在的地平61た訴訟がほとんどであるが,2 つの説が関係してくる主な論点は,①公有水面埋立等のための共同漁業権の放棄はいかなる手続によるべきか(以下「論点①」とする),及び②共同漁業権の放棄による損失の補償を目的として補償金が漁業協同組合に交付された場合に,その補償金は誰に帰属し,いかなる基準と手続によって各組合員に配分されるべきか(以下「論点②」とする)とされている7。が,近年は公共事業と漁業被害との関連で,③ダムや堤防設置等の公共事業活動により漁業被害が生じる場合,組合員ないし漁民集団の有する共同漁業権あるいは漁業行使権は第三者の侵害行為に対する差止請求の根拠となるか(以下「論点③」とする)という問題が争点化しつつあるといえる。中山充教授の概括的な図式化によれば,上記論点①および②については,法的構成に関わりなく,補償金は組合の一般財産とは異なり,損失を被る組合員に配分されるべきものである点で判例・裁判例の見解はほぼ一致しており,また共同漁業権の放棄と補償金の配分手続についても,少なくとも組合総会の特別決議を必要とする裁判例がほとんどであり,この2 つの法理は前掲最判平元・7・13で確定したものとされている8。また論点③についても裁判例ではなく学説上ではあるが,差止請求の根拠となり得るという点では両者の差異はない新・漁業権読本』(まな出版企画,2002年)202頁)。ただし,浜本氏によれば,一般的な漁業補償では,①海面の埋立や干拓等による漁業補償問題が生じると,共同漁業権の主体である漁協が,共同漁業権だけでなく,区画漁業権,自由漁業または許可漁業といった漁業のすべてをまとめて,事業者を相手として漁業補償の交渉を行い,②漁協に一括して交付された補償金は,地区別,漁業種類別等によって代表者を選び,それらの組合の代表者とする「配分委員会」が組織され,そこでの協議により,組合員に対する補償金の配分基準が作成され,③その配分基準は,組合総会にかけられて,全員一致の賛成によって正式に決定される。漁業権の放棄についても全員一致の賛成によって決定される。浜本幸生「解題  我妻栄「鑑定書」と総有説」浜本監修・著・前掲書(注3 )350頁以下。7 中山・前掲論文(注5 )51頁。もっとも,田中・前掲書(注6 )202頁によれば,埋立等漁場の消滅等を伴う事業であっても漁業権を放棄する必要はなく,埋立ないし漁業補償と漁業権は必ずしも一体的にみることはできないとする。漁業権放棄・埋立同意と漁業法・水協法の関係については,熊本・前掲書②(注4 )138頁以下が興味深い分析を加えている。8 中山・前掲論文(注5 )54頁。