高知論叢107号

高知論叢107号 page 67/180

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共同漁業権論争の現在的地平65を考慮すると,少数者に配慮すべきであるとの理由による。ところが,平成13年改正漁業法31条により第1 種共同漁業権の分割・変更・放棄について漁業法8 条3 項の書面同意規定が準用され....

共同漁業権論争の現在的地平65を考慮すると,少数者に配慮すべきであるとの理由による。ところが,平成13年改正漁業法31条により第1 種共同漁業権の分割・変更・放棄について漁業法8 条3 項の書面同意規定が準用されることになり,この漁業法8 条類推適用否定説は立法的に修正されるという事態になった。したがって,論点①に関する[7]最判および[8]最判は判例法としての意義を失っているとみられる(もっとも,平成13年以後の下級審判決に対しては,[8]最判の先例としての拘束力は維持されている14)。思うに,最高裁をはじめとする漁業法8条類推適用否定説の蹉跌の要因の一つは,書面同意規定の意義を見誤ったことにある。書面同意規定は組合の多数者の意思により少数者たる漁業者の地位が不当に脅かされることのないようにとの配慮に出たものであるという見解が示されている15が,総有説の視点からは,書面同意規定の存在意義は,漁業を営む入会集団(関係地区16の住民である組合員)と法人たる組合との意思の乖離を補填するための制度であると位置づけられる17。もっとも,合併が進んでいない状況下の一関係地区一漁協である場合,関係地区住民=入会集団構成員の意思と組合の意思との乖離は大きく14 熊本一規『海はだれのものか  埋立・ダム・原発と漁業権』(日本評論社,2010年)26頁以下(以下,前掲書②とする)は,[8]最判では平成13年改正漁業法31条は説明できないとする。なお同書・27頁は,改正法31条に関する平成13年12月27日農林水産事務次官通知を掲載しているが,同通知によれば,この法改正は,[8]最判に起因して全国各地で「地元地区・関係地区の漁民」の意思を無視した不条理な事態が相次いだため,「組合の多数者の意思により地元地区・関係地区の漁業者の地位が不当に脅かされることのないよう」行われた法改正であるとされている。平成13年改正漁業法31条に関しては,緒方・前掲論文①(注2 )110頁でも取り上げた。なお,行政訴訟(公有水面埋立免許処分取消請求事件)である,松江地判平19・3・19は,漁業権を主張する原告らの原告適格に関して法律上の利益の有無を判断する際,[8]最判を引用して共同漁業権は法人である漁協にあり,組合員に独立した権利があるわけではない,また漁業法31条の手続がなされたか判然としないが,決議に瑕疵があるとしても漁業権を有するのは漁協であって原告らではないから原告適格はないと判示する。控訴審の広島高松江支判平19・10・31も[8]最判を引用した上で控訴を棄却している(いずれも裁判所ウェブサイト掲載判例)。15 魚住・前掲解説(注3 )282頁。16 関係地区とは「自然的及び社会経済的条件により当該漁業の漁場が属すると認められる地区」(漁業法11条1 項)と規定されている。17 田平・前掲論文(注13)155頁。